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だが、それがいかに滑稽だったか
彼女たちが注ぎ続ける熱い視線はわかりやすく、まるでハイエナのようだ。
まるで私がその頂点に立つのは当然なのよ、と心で叫んでいるようで。
彼女たちには、ライバルと獲物しか見えていないのだ。
クスリと私は笑う。
そう、心の中で笑ってやるのだ。
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『坂間くん、あけましておめでとうございます』
やっと電話を終え、大きな背伸びをしている坂間に近づいていく聖奈、紗夜、リノの3名は先を争うように彼のデスクに近づいていった。
それまで年末の仕事に追われていた坂間はやっと彼女たちに気がついたようで、おっと低音の声を上げた。
「安武さん、小竹さん、三宮さん。あけましておめでとうございます。
うわ、皆さん、綺麗すぎますね」
もちろん分かっていたが、坂間は誰一人贔屓することなく振袖を掛け値なしに褒めていた。
まあ、女性たちの心境などはそれぞれ複雑ではあったが。
聖奈は思い出していた。
イブの前夜を独占できた、坂間の甘い言葉と少し年上らしい男らしさを感じさせる笑顔を。
紗夜は思い出していた。
同世代だからこそ話せた等身大の会話と美味しい食事が楽しかったこと、そして彼のスマートな対応の良さを。他の2人よりも少し先を進めた様な気がしていた。
まあ、その後は仕事で遅れた恋人の家で一夜を過ごしたのだが。
そしてリノは一人、勝手に優越感を感じていた。
その後、坂間からは何も連絡はなかったが、クリスマスのあの雪が降るオフィスで交わしたキスの味は甘かった。
何より、彼が何も拒ばなかったのが意外であった。
あの時きっと私のムードの持ち込みが良かったのね、ふふんとリノはどこか余裕のある笑顔を坂間に向けていた。
そんな彼女たちの心を知ってか知らずか、皆さん、そろそろ会議始まりますよ、と3人に
呼びかけるとMac Bookを手に取り坂間は会議室へと歩いていった。
思わず3人は目を合わせる。
ふふっとそれぞれ顔をほころばせ、それぞれのパソコンを手に会議室へ入っていった。
まだ戦いは、はじまったばかりなのだ。