自分のことを話すより、誰かの話を聞いていたい。
年を重ねるごとに、そう思うようになってきた。
ビジネスの場ではもちろん、社交の場もしかり。しっとりとグラスを傾け、好みの酒に好みの料理を合わせ、ただただその空間に酔いしれる。そこに、誰かの“人生”の一部に触れることができれば、もうそれだけで満たされてしまうのだ。
今夜は、あの店に行こう。彼のもてなしに、全てを委ねて。
料理を音楽のようにコーディネイト
東区「東新町北」交差点から徒歩3分。影の落ちる階段を上がった先の扉を開けると、シェフの宮里耕太氏が出迎えてくれる。精悍な彼のいでたちと隠れ家のような店の雰囲気が相まって、まるで映画のワンシーンのようだ。「自宅に遊びにくるように、気軽に来てもらえたら」と話すとおり、店内はカウンター6席のみ。どの位置に腰を据えても、ゆったりと落ち着ける。
ここでは、コースの内容は決められていない。
食べたいものや苦手な食材があれば予約時に伝えるが、実のところ、ほとんどそれをしなくていいだろう。
なぜならこの店では、宮里氏の“刺激”と“感覚”をあえて楽しんでみてほしいからだ。
彼の料理人人生は、少々興味深い。調理の専門学校に通い、2年次の職場実習で訪れたホテルで、なんとスカウトに合う。
予期せず内定を得た彼は卒業後そのまま同社に就職。宴会場に就職し、何十名分もの調理をさばく術を身につけた。2年目からは同ホテルメインダイニングで、現在のベースとなるクラシカルなフレンチと鉄板焼きも7年ほど経験したほか、1年半ほどパティシエとしても腕を磨いた。
マルチなスキルを習得した宮里氏は、レストラン2店舗の立ち上げに携わり、かねてから念願だった自分の店『ラトリエK』を持つことになる。それが今から5年前のことだ。
それから数年後、車で5分ほどの距離に姉妹店である『ラトリエ泉』がオープン。『ラトリエK』が上質な大人の集い場であるならば、『ラトリエ泉』はカジュアルな大人の遊び場、のような立ち位置だ。
そしてその店長には、宮里氏たっての希望で、かつての職場の後輩である落合紀旭氏を呼んだ。
「宮里さんは探求心がすごいです。新しい食材を見つけると教えてくれたり、土地や生産者さんにも詳しかったり。常に料理のことしか頭にないですよね」。
落合氏は宮里氏をそう分析する。
茶化すように付け加えた最後の一言に対しても、宮里氏は笑い、否定しない。
「気になったら現地まで行って自分で見て食べて決めたいんです。それで、いいと思えばすぐ取り入れます。試作もしません。素材を前にしたときの、感覚を大切にしています」。
決まりきった料理はつまらないんです、と言いながら視線をグラスに落とす宮里氏
。その様子を見て、落合氏はさらに言う。「宮里さんは、刺激を求める、感覚人間ですからね」。
彼にとって、料理は、作曲だ。
テーマを前にしたインスピレーションをもとに、即興で作り上げる。ならば、コースの内容はさしずめコンサートのセットリストといったところだろう。どんな流れで、どんな曲を、どのように感じてもらおうかを、客の好みをみて考えるのだ。
それを聞くと彼の店には、やはり“刺激”と“感覚”を楽しみに行きたい、と思えはしないだろうか。
愛でるべき至極の一皿が、今奏でられようとしている。
店舗情報
店名 | ラトリエK |
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営業時間 | 18:00~24:00 ※夜10時以降入店可 |
定休日 |
日曜日・月1回不定休 |
電話番号 |
052-936-8555 |
住所 |
〒461-0005愛知県名古屋市東区東桜2-12-22
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座席数 |
6席 |
クレジットカード |
利用可(VISA、MASTER、UC、AMEX、DC、DINERS、JCB) |
アクセス |
【電車でお越しのご案内】
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URL |
https://latelier.jp/latelierk.html#k_access |
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