すっかりリサの夫の舎弟と化した神尾は「はいっ、ちょっとそっちでタクシー拾ってきます」と大通りを指さして走っていった。
どうやら神尾と二人で飲み直すことは期待できないらしい。
「え、と、じゃあ、少しだけ、2軒目私も便乗させてもらおうかな」
アユミが言うと同時に、大通りでタクシーを捕まえた神尾が振り向き、3人を呼んだ。
アユミが四間道に来たのは、これで二度目だ。一度目は12月。初めて神尾とデートしたのがこの界隈だった。あの頃はまだ、神尾を本気で好きにならないよう自分にセーブを掛けていたのに、その頃の感情にもはや懐かしささえ感じる。
タクシーを降りると、リサの夫が慣れた足ぶりで入り組んだ路地へとずいずいと入っていくのをあとの三人が追った。
「アユミ足元気を付けてね。今から行くとこ、いつも2軒目によく使うお店なんだけどね、神尾さんももしかしたら来たことあるかな? さっきから思ってたけど、どこかで見たことあるんだよね」
「え? 見たことあるって、前に私が写真見せたからじゃなくて?」
「いや、それとは違ってもっと前に。写真じゃ分からなかったけど、何かこの辺で見かけたことある気がするの」
首を傾げるリサに、アユミは「あぁ」と頷いた。
「神尾さん、この辺よく来るって言ってたから、本当に前に見掛けたんじゃない? 私初めてデートに連れてきてもらったのもこの近くだったよ」
「へぇ、よく来るって、それって一人で来てるのかな?」
リサは何気ない疑問と言うように口にしたが、アユミは「さぁ」と返答しながら、何か嫌なものが胸に広がるのを感じた。
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