「そういえば、好きな芸能人とかいないの?」
駒沢がふいにこちらを見て問う。
「うーん、あまりテレビは見ないのでよくわからないのですが…」
好きな芸能人など特筆していなかったが、顔がきれいと思う芸能人の名前を挙げる。
「そっか~。そういう人に出会えるといいね」
「はい。がんばります」
そう言うと、駒沢はふっと小さく笑った。
料理はおしゃれで、どれも愛沙を満足させた。
ナスと西京みその冷製ポタージュ、オマール海老とホタテのポワレ、ミックスベリーのシャーベットなど、どれも豪華だった。
中でも、フィレ肉とフォアグラのロッシーニ仕立ては程よいレアで噛み心地が良かった。
食事中は、お互いの家族構成や趣味の話などをした。
その間駒沢は頻繁に前髪を触り、周りにちらちらと目を向けていて、常にそわそわしていた。
身振り手振りも大きく、グラスを倒したりしないか、愛沙はヒヤヒヤしていた。
―この人はさっきからなんだろう。食事を落ち着いてできない。…でも、お金持ちだし我慢、我慢。
ひっかかりがありながらも、自分を納得させる。
駒沢は愛沙の提示した条件にぴたりと当てはまる人だ。
経済力もあるし、学歴もある。
10人の中で一番顔もかっこいいし、現時点では彼が最も理想の結婚相手に近い存在だった。
今後の未来を考えると、些細な心の違和感は見逃せる。
ランチを終えると、名古屋駅まで送ってもらいそのまま解散した。
ドライブに行こうと駒沢は言ったが、予定があるからと丁重にお断りした。
これ以上は一緒にいられない。
―確か、翌日までに林さんにデートの結果を伝えないといけないんだったっけ。
駒沢と別れてふと思い出す。
両者がOKを出すと、仮交際につながる。
仮交際は3人ほどの同時進行も可能であり、その後の真剣交際にすすめるのはそのうち1人。
真剣交際になると、当然お互いに他の人との仮交際は辞めなければならない。
駅で電車を待ちながら、今日のデートを振り返る。
―駒沢さん、結婚するにはいいかも。もしも彼より良い条件の人が現れたら、乗り換えればいいもんね。
「OK、と」
送信ボタンを押し、ふと空を見上げる。
日没まではまだ時間がありそうだ。
―はあ、疲れた。