ちょっと前よりも道行く人の服が変わっている。
厚手の半そでや薄手の長袖、上着を羽織っている人が多くなっている。
暑さが和らぎ、秋が近づいてきたのだ。
「駒沢さんが写真よりも素敵な人でよかったです」
「ははは。ありがとう。うれしいよ」
言われ慣れているのか、軽やかに笑う。
「さあ、乗って」
駒沢の視線の先には、黒いベンツがあった。
―ふーん、良い車に乗っているじゃない。
車体が日の光を反射して輝いている。
見たところ汚れひとつ見当たらなかった。
車の中もきちんと整理されていた。
「準備はばっちりです」
愛紗はシートベルトを締めながら出発の合図を出す。
「はーい。お願いしまっす」
軽い調子で言い、エンジンをかける。
駐車場を出て、最初の信号が赤になる。
そのすきに駒沢はさり気なく、バックミラーで髪をいじる。
前髪を指で挟んでこすったり、髪を立てたりしている。
満足したのか、話題を探すように聞いてくる。
「はあー、愛沙さんは結婚相談所で何人ぐらいの人と会ったの?」
「まだ駒沢さんで1人目です。入会したばかりなので…」
「へー、そうなんだ。綺麗だから彼氏いそうだけどね」
何度言われたかわからない言葉をお礼と共に、にこりと返す。
駒沢は車が信号で止まるたびにミラーで身だしなみを確認する。
―この人ナルシストっぽい…。
駒沢の言動に引きながらも、身だしなみや持ち物は合格、と今後の伸び代に期待した。
しばらくして、車は目的のフランス料理店に到着した。
白を基調とした広い店内はシンプルで、黒も上手に使い高級感がある。
明るいヒノキの机が心地良い。
ここならゆったり食事ができそうだ。
席につき、料理が出てくるのを待つ。
「んあー。良い雰囲気だね」
小さく伸びをして駒沢が言う。
「本当ですね。静かで落ち着いていて良いですね」
どこに焦点を当てているのだろうか、遠くを見て口角をあげながら、駒沢は黙っていた。