NOVEL

選ばれない女 vol.4~マッチング~

ちょっと前よりも道行く人の服が変わっている。

厚手の半そでや薄手の長袖、上着を羽織っている人が多くなっている。

暑さが和らぎ、秋が近づいてきたのだ。

 

「駒沢さんが写真よりも素敵な人でよかったです」

「ははは。ありがとう。うれしいよ」

言われ慣れているのか、軽やかに笑う。

 

「さあ、乗って」

駒沢の視線の先には、黒いベンツがあった。

 

―ふーん、良い車に乗っているじゃない。

 

車体が日の光を反射して輝いている。

見たところ汚れひとつ見当たらなかった。

車の中もきちんと整理されていた。

 

「準備はばっちりです」

愛紗はシートベルトを締めながら出発の合図を出す。

「はーい。お願いしまっす」

 

軽い調子で言い、エンジンをかける。

駐車場を出て、最初の信号が赤になる。

そのすきに駒沢はさり気なく、バックミラーで髪をいじる。

前髪を指で挟んでこすったり、髪を立てたりしている。

満足したのか、話題を探すように聞いてくる。

 

「はあー、愛沙さんは結婚相談所で何人ぐらいの人と会ったの?」

「まだ駒沢さんで1人目です。入会したばかりなので…」

「へー、そうなんだ。綺麗だから彼氏いそうだけどね」

何度言われたかわからない言葉をお礼と共に、にこりと返す。

 

駒沢は車が信号で止まるたびにミラーで身だしなみを確認する。

―この人ナルシストっぽい…。

駒沢の言動に引きながらも、身だしなみや持ち物は合格、と今後の伸び代に期待した。

 

 

しばらくして、車は目的のフランス料理店に到着した。

白を基調とした広い店内はシンプルで、黒も上手に使い高級感がある。

 

明るいヒノキの机が心地良い。

ここならゆったり食事ができそうだ。

 

席につき、料理が出てくるのを待つ。

「んあー。良い雰囲気だね」

小さく伸びをして駒沢が言う。

「本当ですね。静かで落ち着いていて良いですね」

どこに焦点を当てているのだろうか、遠くを見て口角をあげながら、駒沢は黙っていた。