「早苗さん…少し、お話しいいかしら?」
「はい、何でしょうか?」
「あのハンカチの事で少し、相談に乗ってほしいのだけど…」
「やはり、そのことを悩まれてましたか…」
「ごめんなさい……どうしても不安になっちゃって…」
「いえ、謝る必要はありませんよ、奥様。それは当然の事だと思います。」
「ありがとう、早苗さん」
「もう旦那様も帰って来られる時間ですから相談は明日でもよろしいでしょうか?」
「え、ええ、明日でも大丈夫よ」
こうして、意を決して相談してみた結果、早苗さんが相談に乗ってくれることとなったのだ。
そして、翌日。
相談に乗ってもらえるという安心感故か案外、寝起きは悪くなかった。
その後、朝食を終え、私は早苗さんと共に夫を仕事に送り出す。
(彼に変わった様子はなかった…。やっぱり、早苗さんの言うようにただの考え過ぎなのかな?)
夫の態度からは、特に違和感のようなものを感じない。
でも・・・。
だとしたら、あのハンカチについていた口紅は一体なんだったのだろうか?
何であんなことに…?
「遅くなり申し訳ありません…奥様」
「こちらこそ、ごめんなさい。急がせてしまって」
「いえ、問題ありません、奥様。こういったことも専属家政婦の務めですから」
彼女は優しく微笑む。
「ありがとう、早苗さん。そう言ってもらえると気持ちが楽になるわ」
気遣いに満ちた言葉。
そんな彼女の笑顔と言葉に、何度救われたか分からない。
そして・・・そんな安心感故か、早々に自身の悩みを話し出す。
その後、彼女は私の問いに言葉を選びながら答え始める。
「旦那様の性格から考えて大丈夫だと断言しましたが、奥様としては、やはり旦那様のことが気になりますよね?」
「ええ、実はそうなのよ…。早苗さんの言う事は恐らく、正しいとは思うんだけど…どうしても気になって…。」
「そうですか…それは仕方のないことかもしれませんね」
「そう言ってもらえると気が楽になるわ。ありがとう、早苗さん」
どう言っていいか分からなくなり、思わず詫びる。
でも・・・正直、心のどこかでは分かっていた。
彼女に相談したところで、この状況を変える方法などないのだと…。