そのハンカチには明らかなる異常があったからだ。
その異常とは、ハンカチについた汚れ。
明らかに女性の口紅であろう赤色のシミが付着していたのである。
どうしてこんな状況に…?
どう考えていいのか、分からない。
いや…正直に言うと、考えたくないというのが本音だった。
考えてしまったら、最悪の可能性しか思い浮かばないであろう。
しかし、考えなければ考えないで疑念の闇に呑まれてしまう。
そして、悩みに悩んだ末、きっと誰かにハンカチを貸した結果だと結論づける。
でも…もしそうだとして、貸した相手はいったい誰なのだろうか?
考えれば考えるほど、思考は疑念の泥沼の中に沈んでいく。
いったいどうしたらいいの?
そんな不安を抱え、何とか考えないように努める。
(駄目よ…考えちゃ、駄目)
その後、疑念を心から振り払い、私は夫たちが待つ食卓へと向かう。
こうして食事を終えた後、いつも通り夫と寝室で夜の営みを始める。
しかし、彼の責めに体は強く反応するが、なぜか心の中は酷く冷めていた。
駆け巡る体の熱気とは真逆で、心の芯からは熱がドンドン引いて行く。
そして、この日、私は一度も絶頂を迎えぬまま、夜の営みを終えた。
漸く一歩前進ができたと思ったのに、逆に後退したような現状に再び苛まれる心。
そんな想いを抱えながらも、私はそののち深い眠りに誘われた。
翌日・・・。
(心が晴れない…)
憂鬱な気持ちを引きずりながら、漸く目を覚ます。
あれはきっと、ただの思い違い…。
彼の異性に対する在り方は、決して器用な方ではないのだから。
これはきっと考えすぎなのだ。
しかし、そう思いながらも、ある疑念が頭から離れない。