NOVEL

年収一億超えの妻たち vol.8~疑惑~

そのハンカチには明らかなる異常があったからだ。

その異常とは、ハンカチについた汚れ。

明らかに女性の口紅であろう赤色のシミが付着していたのである。

 

どうしてこんな状況に…?

 

どう考えていいのか、分からない。

いや…正直に言うと、考えたくないというのが本音だった。

考えてしまったら、最悪の可能性しか思い浮かばないであろう。

 

しかし、考えなければ考えないで疑念の闇に呑まれてしまう。

 

そして、悩みに悩んだ末、きっと誰かにハンカチを貸した結果だと結論づける。

でも…もしそうだとして、貸した相手はいったい誰なのだろうか?

考えれば考えるほど、思考は疑念の泥沼の中に沈んでいく。

いったいどうしたらいいの?

そんな不安を抱え、何とか考えないように努める。

 

(駄目よ…考えちゃ、駄目)

 

その後、疑念を心から振り払い、私は夫たちが待つ食卓へと向かう。

 

こうして食事を終えた後、いつも通り夫と寝室で夜の営みを始める。

しかし、彼の責めに体は強く反応するが、なぜか心の中は酷く冷めていた。

駆け巡る体の熱気とは真逆で、心の芯からは熱がドンドン引いて行く。

そして、この日、私は一度も絶頂を迎えぬまま、夜の営みを終えた。

 

漸く一歩前進ができたと思ったのに、逆に後退したような現状に再び苛まれる心。

 

そんな想いを抱えながらも、私はそののち深い眠りに誘われた。

 

翌日・・・。

 

(心が晴れない…)

 

憂鬱な気持ちを引きずりながら、漸く目を覚ます。

あれはきっと、ただの思い違い…。

彼の異性に対する在り方は、決して器用な方ではないのだから。

これはきっと考えすぎなのだ。

 

しかし、そう思いながらも、ある疑念が頭から離れない。