「先生、ご挨拶をお願いします」
由衣が正面の台に設置されたマイクの方へ誘導する。
「いやぁ、照れるな。ちょっとだけな」
小学校の頃から終わりの会も短かった。
「人前で偉そうに話をするのは苦手なんだ」
いつもそんなことを言っていたっけ、と紗希は思い出していた。
「えー、20年ぶりの同窓会。呼んでくれてありがとう!預かっていた宝物も、ちゃんと持ってきたからな!」
今回もそれだけ言うと、さっさと壇上から降りてくる。
「先生、それだけ?」
「久しぶりなんだから、もっと話してよ」
声が上がったが、手を振りながら用意された席に腰を降ろした。
「ではしばらくの間、お料理を楽しみながらご歓談ください」
由衣が同窓会のスタートを告げる。
軽やかな音楽がホールに流れ始めた。
「紗希ちゃんはこっち」
由衣が受付に居た紗希を手招きする。
後藤先生と由衣と同じテーブルに席は用意されていた。
1品ずつサービスされる料理を楽しみながら、あちらこちらで昔話に花が咲く。
紗希は気になっていた名前のことを聞きそびれていた。
- 地球儀からの手紙
1時間ほど過ぎた頃、由衣がマイクを握る。
「皆さま、本日のメインイベントです。後藤先生お願いします」
促されてもう一度、後藤先生が台に進み出た。
手には丸い地球儀を携えている。
20年前に自分に宛てた手紙を入れたあの地球儀だ。
「じゃあ、ひとりずつ名前を呼ぶからな、取りに来てくれるか」