「香那は?」
紗希の様子に気づくことなく、理香子はくるっと香那の方へ向き直して聞く。
「私は、いるわよ。好きな人」
「え、そうなの!?誰?告白した?香那なら絶対、大丈夫でしょ!」
理香子が1トーン、高い声ではしゃいだように言う。
「告白とか、良いの」
香那がきっぱりと言い切る。
「えーッ」
理香子が不満げに声を上げる。
つられてふと視線をあげると香那がまっすぐ、紗希を見つめていた。
まっすぐな瞳、何か言いたげで、でも何か拒絶する瞳。
まるで炎が揺らめくようで、紗希は香那から目が離せないでいた。
202X年5月17日 水曜日 午後8時
ピンポーン♪
チャイムが響く。
「はい、どうぞ、今開けるわ」
手元にあったインターホン越しにピエールが応える。
電子キーを操作して玄関を開ける。
「お客様ですか?私、そろそろお暇(いとま)します」
紗希は立ち去ろうと手にしていたグラスをテープルに置く。
「まだいいじゃない」
ピエールの瞳に捕らえられ、足が動かない。
(この目。どうして香那を思い出したんだろう・・)
その答えが聞きたくて、思わず声が出る。
「・・あの」
紗希が質問しようとしたその時、ガチャリと扉が開いた。
「こんばんは」
「お邪魔しまーす」
「すっごーい、広い!」
陽気な声を挙げて、数名の男女が入ってくる。