「どうしてたの?長い間連絡くれないで」
由衣にそう告げられ、紗希は視線をあげる。
何度か出した手紙に返事をくれなかったのは由衣の方だ。
「電話も何度か掛けたのよ、おうちに」
由衣が頰を膨らませて拗ねる様に言う。
電話のことは知らないけれど・・。
「由衣こそ、返事くれなかったでしょう?」
「出したわよ、ちゃんと手紙が届くたびに。私からも送ったし」
そう言われて、思い返すとこれまで誰からも連絡をもらったことがない。友人が少ないので当たり前かと思っていたけれど・・。やはりただの一度もないのは不自然だ。
家には届いていたのかも知れない。紗希の手元に届くことはなかっただけで。そう考えれば腑に落ちるところがあった。
紗希以外に受け取るのは母しかいない。
何故なのか聞いてみたことはないけれど、母は紗希が友だちと関わるのを嫌がった。学校のことを聞かれても、友だちについては尋ねられたことはない。
「ママが居れば、紗希ちゃんはいいわよね?」
小さな頃から、繰り返し聞かれた台詞。
「うん、ママ大好き!」
無邪気な子どもの答えを母は満足げに聞いていた。
今思えば、母の望んだ唯一の答えだったのだろう。
「紗希ちゃん?」
由衣が不思議そうに覗き込む。
「ううん、なんでもないの。手紙、行き違っちゃったみたいね」
紗希の答えに納得したのかはわからないけれど、由衣はそれ以上聞かなかった。
「まぁ、いいわ。連絡くれたし許してあげる」
由衣はそう言うと、目の前に用意されたシャンパングラスを掲げた。
「再会を祝して」
紗希もグラスを持ち上げる。
「乾杯」
グラスが軽く触れあってカチンと音を立てた。それはまるで閉ざされていた扉を開く鍵音の様だった。紗希はシャンパンを一口含んで目を閉じる。口いっぱいに爽やかな発泡酒の風味が広がった。
「ところで同窓会のことなんだけど・・」
由衣が話し始めたとき、窓の外の葉が揺れたのが見えた。
少しずつ、忘れていたことが浮かび上がってくる、そんな気がしていた。
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再会を喜び合ったその日、小学校時代の同級生・由衣が予約していた美容院に一緒について行くことになった紗希は、そこで懐かしさを感じる人物と出会うことになる。