NOVEL

ルピナス―芽吹く街角で 第二章 vol.3~秋、紅葉を見るために婚約者がいるのに初恋の人とデート。彼の過去を聞いて距離が急接近、もうこの想いは止められない...。~

彼はずっと、たった1人だったのだ。

 

ただ彼を救ったのは花であり、いつどこにいても変わらず咲き続ける強さに憧れを抱いたらしい。

だから今は花に関わる仕事がしたくて、あの店で働いているという。

 

 

「僕の話はこれでおしまい、面白くなかったでしょう?」

私は静かに首を振った。そっと左手で彼の髪の毛に触れる。

「ノアくん、寂しかったでしょう?」

そのまま手を滑らせそっと頬を撫でた。

彼は少しだけ目を潤ませる。そして私の左手を右手でそっと握った。

指は細く、少しささくれ立ち荒れている。

私たちの瞳が、静かにかちりと合う。

まるで時が止まったかのように、私たちの顔が近づいてゆく。

互いの吐息が感じられそうなほどの距離になった時、私の肩に彼の手がかかった。

 

「かれんちゃん、いいの?君は結婚するんだろう?」

私は少し目を閉じた、そしてこう呟いた。

「いいの」

「ほんと?後悔しない?」

彼の綺麗な瞳に自分が映っているのを確認して、ほんの少し微笑む。

そしてそっと彼の眼鏡を外す。やっぱり伊達だった。

肩に乗せられた彼の手が私の左手を掴むその瞬間、彼の柔らかな唇が強く重なった。

私の耳にはあの時、森の中で聞いたピアノの旋律が聞こえた気がした。

何度も唇を重ね、深いキスで頭の芯から満たされた気がした。

さらさらと落ち葉が落ちてゆく音だけが、耳に残って離れない。

そっと唇を離すと互いに微笑みあう。

「ノアくん、好き。ずっと好き」

彼の首に抱きつく。忖度なしの自分の素直な気持ちだった。