レストランは、厳かな和風庭園を臨める店だった。
目の前には、一面に広がる池。
周りに植えられた木々の緑と、白い石造りの燈籠に心が自由になる感覚を覚える。
「ここは会食でよく来るんだけどね。毎回先方に喜んでいただけるんだよ。」
来る人来る人上機嫌なのも納得の店だ。
この光景だけで、幸枝はすでに心を奪われている。
もちろん、塚本のトーク力、人柄もあるのだろうが。
向付は大トロの炙りとサーモンの刺身。
色もツヤツヤしていて見ただけで新鮮だとわかる。
目の前に出されるおしゃれな料理の数々に、気後れしそうになる。
「どうしたの?」
「あ、いえ。すごい綺麗な料理だなと思って。」
「きれいだよね。来るたびに料理が変わるから、俺も楽しいよ。」
テンションが上がり、マグロを色々な角度からじっと魅入ってしまう。
くすくすと笑い声をあげながら、言う。
「今のうちによく見といてね。すぐにお腹に入っちゃうから。」
塚本が優しい目で幸枝を見つめる。
幸枝はずっと重かった肩が、軽くなるのを感じた。
「今日はありがとうございました。」
ランチを食べ終え、そのまま幸枝の家まで送ってもらう。
「こちらこそ。楽しかった。また遊びに行こう!」
爽やかな笑顔で手を振る塚本。
この1日で、幸枝はすっかり塚本を気に入っていた。
礼儀正しいし、爽やかだし、一緒にいて気楽でいられる。
チョロイと言われればそうかもしれないが、これまでにないほど気分が高揚しているのは事実だった。
―塚本とならまた会ってもいいかも。
今後に繋げたいと思っているのは、幸枝も一緒だった。
「はい。また誘ってください。」
車を静かに発進させて塚本が去っていく。
黒く光る車体が見えなくなるまで、幸枝はその後ろ姿を見送っていた。
次回:1月26日更新
無事初デートを終えた彼氏いない歴26年の女。次のステップへ踏み出すことが出来るのか!?