Cを〝彼″と呼ぶのはCだと味気ないからで、〝彼″に変わる良い名前を付けようとしたが、思い浮かばない。
それならまだ名前を与えなくていいか。
彼のイメージは、これからどんどんわたしの中で変わっていくに違いない。
プレイリストに、新たにロン毛のくりりんが追加された。ちゃらちゃらしているのかと思いきや、一本筋の通った男気を感じたので採用した。
ビルと、くりりんと、例の彼。
しばらくはこの3人で回していこう。
その後くりりんからも、ビルからも連絡がきて一夜を過ごした。
終わって帰るときは、まあこんなものだろう、と思った。別れると虚しくなり、また次が欲しくなる。そんなとき決まって思い出すのは、〝彼″のことだ。
―あの人はどうしてるんだろう。
幸枝からは連絡をしていないし、あちらから連絡がくることもない。
最後に会って、2週間ほどだろうか。
〝ゆくゆく″と言った言葉は、ただの気まぐれだったのだろうか。
連絡がこないかもしれない、もう会えないかもしれない。終わりの見えない暗闇の中に立っていると、不安が膨らむ。自分から連絡をしてしまったら、気持ちに歯止めがきかなくなりそうだ。
深入りはしてはいけない。
彼とわたしは、最初から長く続く関係ではないとわかっていたはずだ。
彼には、彼女もいる。
なにも道は彼だけではない。
違う方向に目を向けよう。
そうだ。
もっと、別の男を探してもいいじゃないか。
今度は、包容力や余裕のありそうな年上のお金持ちにしよう。
心のどこかで、まだいつか、彼から連絡がくることを期待している幸枝がいた。
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