傍目から見ると、幸枝は入社時と何も変わっていないだろう。
〝ミステリアスだが、壁があるわけでもない、人畜無害の真面目な美人″
恐らく、幸枝に抱く印象はそういったものだろう。
だから、職場の誰も想像がつかないはずだ。
幸枝が家で、何をしているか。
「今日の成果は、いいね34かあ。」
無音で真っ暗な部屋の中で、携帯電話の画面の明るさだけが不気味に光っている。
「この写真もそろそろ変えようかな。」
過去のフォルダから、自分の写っている写真を探す。
食べ物の写真、感動した景色の写真、面白かった看板。フォルダに収まる数々の写真のほとんどを占めるのは、公平と2ショットの写真だった。半年経った今でも、消すことはできないし、消すつもりもない。
―良い人だった。楽しかったし、幸せだったな。
胸の真ん中が、ちくりと痛む。
付き合っていた頃は色々なところへ遊びに行った。
今ではすっかり引きこもりだ。
―でも、結婚、するつもりないもんな…。
風の噂で聞いたのは、公平にはすでに婚約者がいるというものだった。それもそうだろう。公平ならば引く手数多だろうから。
―こんなに引きずってるのは、わたしだけなのかも。
なんだか、本気で恋愛をしていた自分が急に馬鹿らしくなった。怒りも、やるせなさも、無力感も、全くないと言ったらうそになる。
公平を完全に振り切ったわけではない。なにかしなければ、気分が落ちてしまいそうだ。