NOVEL

引きこもり女の裏側 vol.5 ~誰も知らない家での楽しみ~

 

傍目から見ると、幸枝は入社時と何も変わっていないだろう。

 

〝ミステリアスだが、壁があるわけでもない、人畜無害の真面目な美人″

 

恐らく、幸枝に抱く印象はそういったものだろう。

 

だから、職場の誰も想像がつかないはずだ。

幸枝が家で、何をしているか。

 

 

「今日の成果は、いいね34かあ。」

 

無音で真っ暗な部屋の中で、携帯電話の画面の明るさだけが不気味に光っている。

 

「この写真もそろそろ変えようかな。」

 

過去のフォルダから、自分の写っている写真を探す。

食べ物の写真、感動した景色の写真、面白かった看板。フォルダに収まる数々の写真のほとんどを占めるのは、公平と2ショットの写真だった。半年経った今でも、消すことはできないし、消すつもりもない。

 

―良い人だった。楽しかったし、幸せだったな。

 

胸の真ん中が、ちくりと痛む。

付き合っていた頃は色々なところへ遊びに行った。

今ではすっかり引きこもりだ。

 

―でも、結婚、するつもりないもんな…。

 

風の噂で聞いたのは、公平にはすでに婚約者がいるというものだった。それもそうだろう。公平ならば引く手数多だろうから。

 

―こんなに引きずってるのは、わたしだけなのかも。

 

なんだか、本気で恋愛をしていた自分が急に馬鹿らしくなった。怒りも、やるせなさも、無力感も、全くないと言ったらうそになる。

公平を完全に振り切ったわけではない。なにかしなければ、気分が落ちてしまいそうだ。