美人だと言われるようになった容姿も、男うけのために買った服たちも、高級な化粧品で整えた体も、全てこのときのためなのではないだろうか。
―でも…。
理性と欲望の狭間で葛藤する。
幸枝は表向きマッチングアプリをしていないことになっているし、略奪に動いてしまったら、周りからの印象が悪くなってしまう。もし彼を奪えたとして、彼女に恨まれたくもない。
だが、腹の底から沸き上がってくる情動を抑えきれそうにもない。
―それなら、一度だけ、連絡してみようか。
もし断られたら、諦めがつく。
彼のことは思い出にしよう。
〝もう一度会えませんか。″
アプリを開き、思い切って送る。毎日ログインしている彼なら、気づくだろう。
また夜になったらアプリを開いてみよう。
―それまで、顔のお手入れでもしておこう。
携帯を触っているとソワソワして時間が経つのが遅いから、何かしておこうと思った。
リビングに置いていた、最近買ったばかりの多機能美顔器を手に取る。近くにあったスタンドミラーに手を伸ばし、自分の顔を映す。
―わたし、こんな顔してたっけ。
その姿に幸枝は驚愕する。
ここ数日で、幸枝の頬はこけてしまっていた。
一眠りすると、あれから数時間が経っていた。
アプリを開き彼からの返信を確認する。
―返信きてる!