NOVEL

2番目の女 vol.9 〜既読にならない週末〜

「一生幸せになる資格なんかない」と決めつけていた。だけど、幸せになる権利がない人間なんて存在しない。

誰だって、幸せになって良いのではないか。「幸せになれない」んじゃなくて「幸せになりたくなかった」のかも知れない。

一生被害者ヅラをして生きていった方が、楽だと思っていたから。ただ、現実から目を背けていただけ。ただ、過去に囚われていただけ。

幸せになるには、未来を見つめるには、幸せを手に入れるために一歩を踏み出すことが大切なのかも知れない。

 


前回:2番目の女 vol.8 〜既読にならない週末〜

 

 

大輔くんにプロポーズされてから、結婚まではスムーズに進んだ。お互いの両親に反対されることもなかったし、会社の人も盛大に祝福してくれた。「やっぱ大ちゃんと結婚すると思ってました〜」なんて後輩には言われた。

ただ、結婚するからといって私は仕事を辞めないことにした。「寿退社」に憧れていたこともあったが、私は仕事をしていない自分が想像できなかった。大輔くんも、仕事についてとやかくいうことはなかったし、子供がいるわけでもないから仕事は今まで通り、続けることに決めたのだ。

 

そして、私たちは籍を入れる日を決め、結婚式の話もするようになった。今さらウェディングドレスを着るなんて恥ずかしいが、私だって一応女の子。ウェディングドレスに対する憧れはあった。

そんな私の気持ちを知っていたのかわからないが、大輔くんは「お互い良い歳かも知れないけど、結婚式はちゃんと挙げたい」と言ってくれた。私はその言葉に大きく頷いた。

そこで問題となるのが、結婚式に呼ぶ人。私は友達をどこまで呼ぶか迷った。そして、頭に浮かんだのが翔太の存在。翔太のことは大輔くんには話していなかったし、これからも話すつもりはない。

もう私の頭の中にいるのは翔太じゃない。だけど、幸せになった自分を翔太に見せつけたいという気持ちが出てしまった。悩んだ私は、翔太とのトーク履歴を開いた。

翔太とのトーク履歴は、全くない。それだけ、関係は過去のものなのだ。いざ、メッセージを送ろうとすると緊張する。私からメッセージを送るのなんて、いつぶりだろうか?

 

「久しぶり。私、結婚することになりました」

 

翔太にメッセージを送ると、すぐさま「既読」の文字が付いた。私は思わず、トーク画面を消す。そしてホーム画面に戻ると、1分弱で翔太からの返事が届いた。

 

「そうなんだ!おめでとう!」

 

この文字だけを見れば、ただ友達の結婚を祝福しているだけ。なのに、私はなぜか心がモヤモヤした。翔太にとっての私って、一体何だったのだろうか。

 

「結婚式、来てくれる?」

「行きたい!友梨ちゃんにも久しぶりに会いたいし」

「ありがとう、呼ぶね」

 

あんなに嫌いだと思っていた人。もう会わないと思っていた人。だけど、嫌いだと思っていたのも会いたくないと思っていたのも、きっと翔太のことが好きだったから。愛していたから。

 

きっと大輔くんと会う前の私だったら、翔太に連絡することなんて怖くてできなかったかも知れない。きっとまた、翔太とメッセージを交わしたら、流されてしまうから。でも、今翔太から「会いたい」と言われたからって、何も思わなかった。ただの友達として見られるようになっていた。