NOVEL

2番目の女 vol.6 〜既読にならない週末〜

一歩を踏み出す勇気。それは小さな一歩かもしれない。

だけど、小さな一歩の積み重ねが大きな一歩となって返ってくる。私が踏み出した一歩で、何かを変えることができるのだろうか。

この一歩が、幸せにつながりますように。

そんな想いで、今日も私は一歩を踏み出す。

 


前回:2番目の女 vol.5 〜既読にならない週末〜

 

翔太と会うことに加えて婚活も辞めたことで、私は翔太と再開する前の生活に戻っていた。仕事に一生懸命な毎日。まるで今までの恋愛を全て忘れるように、私は仕事に打ち込んだ。

 

良い結果が出せれば会社からも評価され、クライアントからもお褒めの言葉もいただいた。

それが私のやりがいとなり、今まで以上に仕事に対するモチベーションは上がった。まさに「仕事が恋人」といえるような生活だった。

 

入社してから10年も経つと、同期はもちろん、後輩からも結婚や子供ができたという話を聞くことも増えていた。お祝いの言葉を伝えながら、羨ましい気持ちでいっぱいだった。恋愛なんて、結婚なんて夢を見ないって決めたはずなのに、私は夢を完全に捨て去ることはできなかったのだ。

「向井さんって、彼氏とかいないんですか?」

 

後輩と行った打ち合わせの帰り、沈黙となったタイミングで後輩が話しかけてきた。入社したばかりの頃の先輩との話を思い出す。

 

「いないよ、私、仕事が好きだから」

 

あのときと同じ返答。入社当初は仕事を覚えることで精一杯だったし、恋愛をする余裕なんてなかった。だけど今は…。

私は仕事に逃げているだけだ。

ずっと現実から逃げてきた。だからといって、全てを仕事にぶつけられるわけでもなかった。恋愛も仕事も、結局中途半端。どちらにも一生懸命になることができなかった。こんな中途半端な自分が、嫌いで嫌いで仕方がなかった。

 

恋愛をしないと決めたところで、仕事に一生懸命になることができたら良かったかもしれない。

だけど私は、結局仕事に一生懸命になることなんてできなかった。仕事に打ち込んでいるつもりではいたが、5年後、10年後も仕事をしている自分を想像することができなかった。

 

私だって、結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築きたい。

後輩からの問いかけをきっかけに、私は再び結婚願望が芽生えてしまった。