NOVEL

2番目の女 vol.5 〜既読にならない週末〜

 

「友梨さんって、可愛いですよね」

 「え?」

 

映画館の椅子に座り、映画が始まるのを待っていると、突然声をかけられた。思いがけない言葉に私は変な声が出てしまう。隣から黒澤さんの視線を感じるが、恥ずかしくて顔を向けられない。

 

「俺、友梨さんのことが好きです。結婚を前提に、付き合ってもらえませんか?」

 

突然の告白だった。薄暗い映画館の中、早めに入っていたから人もまばら。そんな空間で告白されて、ドキドキしない方がおかしい。

 

「私も好きです」

 

本当だったら、すぐにでも返事をしたかった。だけど、私の頭の中には「不倫をしていた」という事実が引っかかって仕方がなかった。

 

「えっと…」

 

思わず返答に困っていると「映画が終わったら、返事聞かせてください」と、少し強引に声をかけられた。その後の映画の内容なんて頭に入ってくるわけもなくて、私の頭の中は黒澤さんからの告白のことでいっぱいいっぱいだった。

 

映画が終わり、落ち着いたカフェに入る。告白のこともあってか、カフェに向かうまでの会話はいつもよりも少なかった。目の前に座った黒澤さんの表情も、心なしか緊張しているように見える。

 

「気を遣わないで良いので、嫌なら断ってください」

 

嫌なわけがない。私だって、黒澤さんと付き合いたい。いつまでも過去に囚われているわけにはいかない。だけど、黒澤さんが人を信じられなくなったきっかけは不倫。それを経験した私が、黒澤さんと付き合う資格なんてないと思った。

 

「私、不倫してました」

 

告白の返事でも何でもなく、急に言葉を発した私。そんな私を見て黒澤さんは驚いた顔をした。そして、黒澤さんには嫌われる覚悟で私は全てを話した。

 学生時代、彼女がいる人を好きになったこと。彼女がいるとわかっていて、体の関係を持ったこと。浮気だけではなくて、不倫にも発展したこと…。黒澤さんは、私の話を黙って聞いてくれた。

そして話の最後、私は自分の気持ちを全て伝えた。自分の言葉で、自分の本音を。

 

「私には黒澤さんみたいに素敵な人を好きになる資格なんて、ないと思っていました。だけど、私は黒澤さんを好きになってしまったんです」

 

黒澤さんには、予想外だったかもしれない。だけど私の過去の話を聞いた後だったからか、複雑な表情を見せている。

 

「好きだけど、私は黒澤さんとは付き合えません。ごめんなさい」

 

私は黒澤さんに対して頭を下げる。そんな私を見て、黒澤さんは何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。

 

「こんな私を好きになってくれてありがとうございました。黒澤さんには、もっと素敵な人がいると思います」

 

私はそう言ってその場を立ち去った。後ろから黒澤さんが呼び止める声が聞こえたが、聞こえないふりをした。自分が最低なことは、自分が1番わかっていた。