知らないところで噂になっていたのだろうか。
確かにライトアップを見に行くなど、他の人に見られてもおかしくないことはしていた。
表情から読み取ったのだろう。石田は続けた。
「その話、たぶん三村知ってるっぽいぞ。大丈夫なのかよ」
「…ただタイミングが合って一緒に帰っただけだよ。食事に行ったこともあるけどもう最近は全然いかないし」
嘘ではない。
「何度かそういうことがあったってことか。悪いことは言わないけどな、辻本さんはやめとけ」
あまりにはっきりと忠告するので理由を聞きたくなる。
「石田がそんな風にいうなんて珍しいな」
「辻本さんはさ、最近人事部長とよりを戻したらしいんだよ。これも噂ベースだけどさ。それが本当だとしたらお前は人事部長の彼女に手を出したことになる。この会社でずっと働いていきたいなら、三村と平和に付き合うことだけ考えろよ」
それは正しい忠告だった。
プライベートがどこまでキャリアに響くかわからないが、相手は人事部長だ。
権限は大きい。
それにしてもよりを戻していたのか…。無視するなら直接言ってほしかった。
◆
「ごめんなさい、あなたにはもう会えないわ」
目を合わせず彼女は言った。
俺はマンションの入り口で立ちすくんでいた。
電話もメールもつながらないことに痺れを切らして会いに行ったところだった。
彼女のマンションは入り口で部屋番号を押すタイプだ。すぐに部屋には入れない。
インターホンを押すべきか。それとももう一度電話をしてみようか。
迷っていたところでタイミングよく彼女が出てきたのだった。
一瞬彼女は驚き、戻ろうとした。
咄嗟に腕を掴んだが、明らかに避けられていることがわかり少し傷つくのを感じた。
「…俺のこと避けてましたよね?」
加澄さんがどことな
くお洒落に着替えて出てきたことに気づく。
出かけるところだったのだろうか。
どこへ?誰と?
「ちゃんと伝えなきゃいけないと思っていたのだけど…ごめんなさい、あなたにはもう会えないわ」
そう言われたのだった。
「どうしていきなり?人事部長と元の関係に戻ったんですか?」
「やめてよ、こんな入り口で」
確かにそうだ。
「もう終わりにしましょう。あなたも彼女がいることだし。理由は勝手に想像してくれればいいわ。そのうちあなたも知るでしょう」
一瞬腕を離した隙に加
澄さんは出ていってしまった。追うこともできたがこれ以上追って余計に嫌われたくないという気持ちのせいで動くことができなかった。
一体何があったんだ。
やはり彼女にとって俺は本気ではなかったのだ。うすうす気づいていたことが明白となったが、こんなにショックを受けるとは思わなかった。