「それと申し訳ないけど三村くんにも先ほど伝えさせてもらった。彼女には普通の男と幸せになってもらいたいからね」
「…!」
そう言い残すと伝票をもってサッと席を立った。俺は追いかけることもできない。
三村も知った…?
部長の言うことは間違っていない。でもその捉え方でなんでこうも恨まれる必要があるというのか。
どこで間違ったというのだろうか。
先ほどの内示ではもう明日から異動先への赴任日まで会社に来なくてよいといわれた。要するに危険人物を社内に置いておけないということだ。
絶望のままラウンジを出て会社に戻る。荷物をまとめないといけない。
石田が廊下で俺を呼び止めた。
「お前何かやったのか?異動になるって聞いたぞ」
俺は無表情で頷いただけだっただろう。
その後一緒に会社を出て一部始終を話す。何も隠さず吐き出したかった。
石田は三村から話を聞いたらしい。
俺のスマホに何度も連絡が来ていたが無視したせいだろう。電話に出ても何を言えばよいのかわからなかった。
「あいつ式をやめるって言ってた。お前のハラスメントと異動の件を聞いて弁護士に相談するとも。お前の子どもが他にいるということが耐えられないらしい」
情けをかけるような表情で言う。
「まずは三村と良く話し合えよ」
石田としても口にする言葉がないのだろう。
三村は俺と別れるだろう。理由はこちらにあるから慰謝料も考えているかもしれない。
会社でのキャリアは望めない。ハラスメントを引き起こした人間が上を目指せるわけがない。一生本社に戻ることはできないだろう。
今日も社内で好奇の目線が向けられているのを十分に感じた。
どこで俺は道を誤ったのか。
この先どうやって生きていけばよいのか。失ったものをぼんやりと数えながらうな垂れるしかなかった。
―The End―