綺麗だな…。
それに気づいた途端、意味もなくカッとなった。
職場で女性の肌をただ見つめてしまうなんてどうかしている。
気配に気づいたのか、女性は振り返って言った。
「カプチーノを入れたいんだけど、どう操作するかわかる?」
挨拶も微笑みもなく要求だけを言う。
見ると、ミルクコンテナに牛乳は入っているし豆もセットされているようだ。
ボタンを押すだけなので難しい操作は不要である。
「ちょっと見てみますね」
そう言って彼女の隣に立った。
その瞬間にウッディな香りを感じる。香水なのだろうか。
重厚な気品を感じるような、それでいてどこか甘い香りだ。
先ほど見えた肌を連想してしまう。
肝心のコーヒーマシンはボタンを押しても反応しない。
「あ」
何気なく横のボタンに触れて気づいた。電源が入っていなかっただけだった。
「あら、電源だったのね。ありがとう」
口角を綺麗に上げて微笑む。
「このマシンだとしっかりとした豆の味が感じられて美味しいって聞いたから…ただ一杯飲みたかったの」
言い訳をするように俺の目を見ずにそう言った。
華奢なコーヒーカップをセットしてカプチーノのボタンを押そうとした彼女に言った。
「濃いめのコーヒーがお好きならフラットホワイトもおすすめですよ」
手を止めこちらを見る。
「フラットホワイト?」
「ええ、カプチーノよりもエスプレッソの量が多めなんです。俺、ニュージーに住んでたことあるんでそっちでよく飲んでいて」
咄嗟に使った「俺」という一人称が気恥ずかしく感じられた。社内では「私」を使うようにしているのに。
ふうん、と言いたげな唇だ。
「じゃあ、それにしてみるわ」
その言葉で俺は何も言わず、コーヒーマシンの正面に立った。正確にいえば彼女の側に一歩近づくようにしてフラットホワイトを設定した。
カプチーノなどのメジャーなメニューではないので何段階か操作をする必要があったからだ。
説明するよりやった方が早いだろう。
彼女は何も言わないがこちらの横顔を見ているのはわかった。涼やかな目元が視界に入る。
後ろ姿の印象とは違い、正面はシンプルだった。ゴールドの細いネックレスが首元に映えている。