NOVEL

玉の輿vol.8 ~迷宮の章~

「あなたに問題がなければ…ちゃんとできるはずだから」

昌枝は静かにそう告げると、席を立った。

 

何が言いたいのか?

聞かなくても、解る。

 

「珠子さん、最近疲れてます?」

飛成が珠子の顔を覗き込む。

綺麗な顔を間近に見ると、胸が苦しくなる。

 

「なんで…?」

「そう、見えたので」

 

飛成はいわゆる“さとり世代”だ。

達観していて、大人びていて、でも無垢な部分がある。

5歳下なだけ。

珠子は“ゆとり世代”だと言われてきた。

何かが違う。

自分の周囲の年代と、彼は何かが違う気がするのだ。

だから、魅かれてしまうのかもしれない。

若き青年に…。

 

「ううん。なんでもないよ」

「旦那さんと、上手くいってないとか?」

「そんなことないよ!」

「そっか…ちょっとだけ、残念」

 

飛成が愛おしくてたまらない。

でも、雄一郎と結婚しなければ、飛成とも会えてはいないのだ。

それが、目の前にある現実だ…。

昌枝から与えられた薬では、丁度排卵日に差し掛かっている。

本来なら、今晩は雄一郎を捕まえて、寝なければならない。

目標を果たすために。

でも、乗り気がしない。

 

「ごめん…今日は帰るわ」

 

このまま、飛成といたら…もしチャンスがあるなら…なんて、欲望が生まれそうで怖い。

人間も動物と一緒だ。

発情したら、止められない。

でも、そんなことがあってはならない。

 

まさに愛子が言ったように『生まれてきた子の顔が全く違う』ことになりかねない。

 

その時…ふと、珠子は思った。

『そういえば…愛子…今どうしてるんだろう?』と…。

新婚旅行を奪われた時から、互いに連絡していない。

元々、愛子は婚活パーティーに結婚相手を探しに出席していたわけでないと、本人も認めていた。

 

依存意識が強い珠子と、独立心の強い愛子。