「あなたに問題がなければ…ちゃんとできるはずだから」
昌枝は静かにそう告げると、席を立った。
何が言いたいのか?
聞かなくても、解る。
「珠子さん、最近疲れてます?」
飛成が珠子の顔を覗き込む。
綺麗な顔を間近に見ると、胸が苦しくなる。
「なんで…?」
「そう、見えたので」
飛成はいわゆる“さとり世代”だ。
達観していて、大人びていて、でも無垢な部分がある。
5歳下なだけ。
珠子は“ゆとり世代”だと言われてきた。
何かが違う。
自分の周囲の年代と、彼は何かが違う気がするのだ。
だから、魅かれてしまうのかもしれない。
若き青年に…。
「ううん。なんでもないよ」
「旦那さんと、上手くいってないとか?」
「そんなことないよ!」
「そっか…ちょっとだけ、残念」
飛成が愛おしくてたまらない。
でも、雄一郎と結婚しなければ、飛成とも会えてはいないのだ。
それが、目の前にある現実だ…。
昌枝から与えられた薬では、丁度排卵日に差し掛かっている。
本来なら、今晩は雄一郎を捕まえて、寝なければならない。
目標を果たすために。
でも、乗り気がしない。
「ごめん…今日は帰るわ」
このまま、飛成といたら…もしチャンスがあるなら…なんて、欲望が生まれそうで怖い。
人間も動物と一緒だ。
発情したら、止められない。
でも、そんなことがあってはならない。
まさに愛子が言ったように『生まれてきた子の顔が全く違う』ことになりかねない。
その時…ふと、珠子は思った。
『そういえば…愛子…今どうしてるんだろう?』と…。
新婚旅行を奪われた時から、互いに連絡していない。
元々、愛子は婚活パーティーに結婚相手を探しに出席していたわけでないと、本人も認めていた。
依存意識が強い珠子と、独立心の強い愛子。