「でも…珠子さん。もう一つ、妻としてのお役目があるでしょ?」
「…え、ああ、はい」
思わず戸惑う。
「雄一郎とは、どのくらい夜を過ごしているの?」
『あ…』心の声が噴出しそうになり、思わずそれを止める。
結婚前よりはしているが、最近は確かに雄一郎の外泊も多く、できていない。
でも、まだ3カ月である。
「まだ、3カ月ですから…」
珠子は思わず言葉にしてしまった。
「そうねぇ。でも女の身体は、毎月更新なのよ?
そして、妊娠して4カ月までしか堕胎は出来ない。
正式に結婚して、まぁ、あなたは、1カ月無駄にしたから3カ月でも、実際は4カ月よ?
もし、交際中にできていたとしても、発表しても世間様は騙せる時期に入ったってこと。
理解しているかしら?」
どストレートな言葉の魔球で、珠子は三振してしまったバッターのように唖然とした。
「雄一郎は丁度盛んな時期だし…。
あなた自身も、ちゃんと管理してくれないとね」
昌枝が手を叩くと、芽衣が「はい奥様」と寄っていき、何かを手渡されそれを珠子のところへと運んできた。
珠子が芽衣に手渡されたのは、小さな箱だった。
よくパッケージを見てみると『排卵日検査薬』と書いてあった。
ギョッとした表情で昌枝を見ると…
「最近の医療は発達しているから。もしあなたに何も問題がなければいいの。
何かあった場合は早い方が良いでしょ?あまり時間をかけすぎると、高齢出産になってしまうわ」
さらりと言ってのける。
今の時代、30代の出産は当たり前になっている。
時代が違うと言いたい気持ちもあるが、珠子にも後ろめたい気持ちはあった。
子供を作るという意味で性交しているかと問われれば、珠子自身も明確にそうだとは言い切れないし、雄一郎を満足させている自信もまだ持てていない。
『妻になった!』
という既成事実はあるが、今や心は飛成に向き…
雄一郎と一緒に夜を過ごすことも少ない。
子供を産んでこその『玉の輿』だという自覚はあるが、そういう行為に未だに夢を見ている気質が抜けていないのだ。