「紹介するわ。この子は飛成(ヒナリ)私の遠縁。今度うちの会社に入社が決まったから、顔見世に連れて来たの」
「初めまして。流沢飛成です」
微笑むと十代のようにも見える。
珠子は心の中で『彼も整形?』などと、穿った気持ちを持ってしまった自分が随分と薄汚れたような気になって、舌打ちをしたくなった。
「初めまして、西園寺珠子です。私は仕事関連に携わりがないから…」
「いいわよねぇ、西園寺は本物の財閥だもの。遊び惚けていても誰も何も言わない。
昔のお貴族様みたいで…」
相変わらずだ。『誰かこの女の口を今すぐ塞いでくれ!』と叫びたくなるほど、腹が立つ。
その時だった。
「麻梨恵さん。みっともない言い方は止めなよ。僻みにしか聞こえない」
明らかな批判を若い青年から向けられ、麻梨恵は顔を少し歪めて飛成を睨みつけていた。
『まだ若いのにカッコいい…。素敵…!』
珠子が飛成に抱いた最初の感情は、アイドルを追いかけるファン心理に近かったが、彼も流沢家の人間なら、きっと将来は安泰の立場だ。
先にどうして、こっちに出会えなかったのか…?
暇つぶしと、セレブを堪能する為に出席していた夜会に行くことが楽しくなったのは、飛成に会えるかもしれないという細やかな想いに代わっていく…。
珠子は、より西園寺家に骨をうずめる為に、自分が西園寺家の一人息子の妻である顔売りに精を出しつつ、飛成と出会えれば喜び、会えなければ即切り上げる生活を送るように変化していった。
そんなある日の昼だった。
義母の昌枝が珍しく、珠子をランチの席に呼びつけた。
西園寺家はそれぞれ生活習慣が違うため、揃って食事することは滅多にない。
それにも慣れ、珠子の生活リズムで外食したり、食事を頼んだりしていたが、その日だけは執事の梶原から言付けられ渋々同席させられた。
「珠子さんが率先して会に参加してくれて、西園寺家としてもとても助かっているわ。
何分雄一郎が、あんなんでしょ…?」
たった3カ月でも解る。
最初の頃は、新婚ということで共に出席していたが、珠子の顔を拡げられたらもう自分はいらないとばかりに、雄一郎は来ない。
「いえ、義母様。雄一郎さんの妻として当たり前の事をしているだけですから」
「妻として…ねぇ。素晴らしいわ」
「ありがとうございます」
当たり障りのない、姑と嫁の会話。
昌枝が何を探っているのか、もしかしたら、珠子が飛成に夢中になっていることがバレているのでは?と心配していたが、その気配はなかった。