芽衣なりに気を遣った返答をし、その場を立ち去ろうとしたときだった。
愛子が芽衣に近寄ってきた。
『この女は苦手だ!』
芽衣は、思わず視線を落とす。
愛子はその態度を知ってか知らずか、芽衣の目の前にあったキッチンワゴンを押しながら形のいい唇を開いた。
「珠子。気にすることはないわよ。あの女は、ただの負け犬だから」
『どういう事?!』
珠子も芽衣も同時に思った。
「あの女は、雄一郎さんの元婚約者。有名な話よ?でも、まぁ、お家騒動があって、破談したのよ。それに、あの女、昔と今で、相当顔が違うから。
あれはただの、金で作られた人形よ。
雄一郎さんだって考えたでしょうよ。
あんな女と子供作っても、向こうの血が強かったら、誰の子かわからない顔の子供が生まれてくるのよ?散々でしょ。そんなの…」
愛子の饒舌は止まらなかった。
珠子と芽衣は、それぞれ違う旋律を覚える。
婚活中に、珠子も何度か整形という選択肢が脳裏を過った。
生まれつきの美人にはかなわない、顔立ちの部分を補えばよいのか?
それでも、その一歩を踏み出す勇気はなかった。両親に愛されて育った珠子は、誰にどう見られていようが、自分の容姿に愛着を感じていたのだ。
芽衣は偏向な世の中に憤りしかない。
作り変えなくても美しいと称賛されるのに、自分は雄一郎を公私ともに認める形で手に入れることができない。
それは、出生という足枷があるからだ。
選ばれた者と、選ばれざる者。
等しく感じる迷いの交差が生じる。
それを知ってか知らずが、愛子が尚も二人を追い立てる。