雄一郎はモテる。
一々、客に嫉妬することはない。
だが、雄一郎の珠子へ対する対応が、他の女性客へのそれとは余りにも違って見えたのだ。
芽衣から見ても、珠子は特質した美人ではない。
それならば、自分の方が彼女より雄一郎を知っているという自負はあった。
何よりも、芽衣の若さと客からの評価でそれなりの自信は育っていた。
20歳のプレゼントにダイヤのピアスを渡され、雄一郎にとってただの店員ではないのだと、幼い思考で勝手に確信へとそれをすり替えていた。
若き恋心の、過ちとも気付かずに。
西園寺家での仕事は、『アンデルセン』よりも過酷なものだった。
それでも、此処は雄一郎が生まれ育ち、この先もずっと住む場所。
芽衣はそれだけで幸せを感じられた。
しかし、突然その神聖なる空間にあの女。
珠子が現れる。
庭の水まきをしている最中、二人が寄り添いながら談笑している姿を見た時、背筋が凍るような感触に苛まれた。
慌てて、執事であり使用人の責任者である梶原に尋ねた。
「雄一郎様が、女性をご自宅に招くなんて珍しいですね」
これが、芽衣にとっての精一杯の言葉だった。
「ああ、あのお方は雄一郎様の婚約者です」
鈍器のようなもので、頭を殴られたような衝撃を感じる。
婚約者…?
好きな人ができたから、芽衣を『アンデルセン』から引き離したという事だったのだろうか?
この敷地内では、オーナーとして和気あいあいと話すことはできない。
主と召使の構図を崩せないため、思っていたよりも雄一郎との距離は離れてしまった。
『でも、そうだよね…こんな子供を。大人の彼が相手にするはずないんだ』
解ってはいても、納得はできない。
芽衣はまだ幼すぎたのだ。