でも、それよりも…。
「私との関係も終わり?」
愛子は上目遣いで促すと、雄一郎の口許が緩み愛子に深い口づけを落とした。
「そう思うなら、親友の結納の直前に連絡をよこす女は性悪だな。」
「性悪な女は嫌い?」
「いや。」
男に一気に多くを求めてはいけない。
男から、自分の求める結果を導き出すためには、相手の欲しいだけの至福を与える事だ。
求めすぎれば、逃げていく。
愛子は珠子が思い描いた『玉の輿』の捉え方の違いを、実行しようと闘志を燃やしていた。
この男の子供が欲しい。
29歳になったギリギリの女よりも、経験知の高い愛子の方がよりその可能性は高い。
結婚したら安定した未来が待っていると信じている珠子ほど、愛子は楽天家ではなかった。
愛子は世間体よりも、見栄よりも、自分の望んだ未来を手に入れる為に、雄一郎へ熱情を向けた。
盛大な披露宴を終えて、珠子はへとへとになっていた。
全ての式を無事に終え、最後のお輿入れと共に西園寺の家に珠子は住むことになる。
そうなれば、西園寺家に慣れるまでしょっちゅう会えないかもしれないからと、珠子は実家に愛子を共だって戻ったのだった。
珠子は愛子を心の底から信じているように見えた。
その気持ちが、何処まで本当なのかは、愛子にはどうでもいい事ではあるが少しだけ胸が痛む。
「どうだった?」
見るからに、全ての生気を抜かれたような珠子が少しだけ、哀れに思えた。
「幸せ…だったと思う。夢から覚めないでって思ってた。」
珠子の視線は定まっていない。
「何それ、これからじゃないの。新婚さんになるんだよ?」
「うん。」
「ずっと、夢だったんでしょ。」
「そうだよ…。」
「なら…」
珠子が愛子の腕を掴み、頭を胸に擦り付けてきた。
「ありがとう…本当にありがとうね。」
愛子は、無意識の内に珠子の頭を優しく撫でた。
珠子の純粋なところは可愛い。いつまでも幼くて、視野の狭いところが、たまに愛おしい。
雄一郎には、解っているのだろうか?
その頃、自宅の豪邸にもどり親族たちへ最後の挨拶を勤め上げたあと自室に戻り、雄一郎は大きなため息をついた。