でも、深層では…
『そんなお福人形みたいな顔をして、よくもまぁ夢心地に浸っていられる。めでたい子…』とは思う。
何も見えていない平和ボケしているその姿と、身の丈に合っていない珠子の夢幻のファンタジーを聞いているのも、苦でなかったのはただ愛子にとっての珠子は、自分の不相応な欲求を紛らわせる遊び相手のような感覚だったのかもしれない。
名古屋の見栄の文化を、そのまま描いたような…
煌びやかな結婚式を眺めながら、複雑な心境を持っていた。
『どこで、掛け違えたのだろうか…?』
愛子の頭の中で何度もリピートされる疑問。
西園寺雄一郎との身体の相性は、愛子の方が良かった。
珠子の話では、交際をしていても雄一郎は珠子に会うたびには身体を求めてこない、紳士だったそうだ。
しかし、愛子とは会ったその日の内に関係を持ち、気分が乗った時にまた会いたいと連絡が来ていた。
珠子の交際相手が雄一郎だと知っても、さほど興味はなかった。
後々になり、珠子が雄一郎からプロポーズを受けた話を聞き、雄一郎の素性を告げられた瞬間、
愛子は、臓物がひっくり返るような腹痛を覚えた。
何かの歯車が合わない。
確かに珠子からの恋愛相談は受けていたが、二人が交際しているならと愛子は雄一郎との関係を、珠子には話さなかった。
その必要もない程度だと思っていたのだ。
何も知らずに、逃した魚はデカい。
そして『おこちゃま』だと、身の丈に合っていない夢を語るお福人形が可哀そうにと可愛がってあげていた自分が、置いて行かれる恐怖は生半可ではなかった。
『玉の輿』に乗るのが夢で、名古屋の結納結婚式、お輿入れをしたいと語りながらも、ごく一般家庭の実家住まいの珠子は式の準備に追われていた。
一方で、西園寺家としての行事であって、どこか他人事のような雄一郎は、暇を持て余しているようだったので、愛子の連絡に飛びついてきた。
食事をして一杯飲むなんてまどろっこしい事は一切なく、待ち合わせはホテルだった。
そして、二人は多くを語らず情事に耽った。
愛子の奉仕に溺れた男の口は軽い。
「あいつさぁ、マグロでつまんないんだよ。」
逞しい腕に肩を抱えられながら、薄っすらと汗ばんだ肌の上に掌をくゆらせ、愛子は雄一郎の口を緩くさせる。
「じゃあ、なんで結婚なんてするの?」
「んん…無害そうだからかな?」
「どういう意味?」
「そこらのお嬢たちは無駄にプライド高くて面倒だし、家柄は良くなくても真面目そうってだけで、両親はあいつの事が気に入ったみたいだし。
大切だろ?姑問題とかに巻き込まれたくないしな…。」
「へぇ…」
愛子は、興味なさそうに振る舞う。
雄一郎の女癖が悪い事なんて、周知の事実のはずだ。
それに気づくことなく、いい具合の生贄にされる珠子には少し同情する。