NOVEL

玉の輿 vol.1~珠子の章~

~婚活始めて8年。珠子は白壁の地主で一人息子を手に入れた。念願叶った結婚式~

女たちの見栄とプライドをかけた、現代版大奥のバチェラー合戦が開幕!

 


 

生頼珠子(きらいたまこ)は最高の歓喜に酔いしれていた。

29年間夢にまで見た、『愛知県護国神社』で緑に囲まれながら、神職に導かれ参道を歩いている。

 

後をついてくる、親族もまた高級な礼服を纏って畏まっていた。

その儀の主役として、珠子は先頭を歩く。

隣には、名古屋市内でも有数の高級住宅街である白壁に大豪邸をかまえ、数多の店舗貸やマンション賃貸の不動産業を生業にしている、西園寺家の一人息子である雄一郎がいる。

身長は183センチ、彫りの深い顔立ちで、ひと際目立つ存在だ。珠子が小柄なわけではないが、雄一郎の顔を見ようと思っても見上げなければならない。

なので、今はゆっくりと静かに足を前に進めるのみに徹していた。

 

結納には着物を含め、300万円は投資した。

しかし、この結婚式代は全額雄一郎が負担してくれた。

 

夢にまで見た、この瞬間を噛みしめて、眩しい太陽の光に包まれながら珠子は歩く。

珠子は子供頃に、『徳川博物館』に行くのが好きだった。

小学校の自由研究を兼ねて行ったときに、歴史に興味を持った。

歴史好きのほとんどが、武将や将軍や刀などを好むようだが、珠子の心を惹きつけたのは、歴史上の女たちであった。

 

珠子の両親も歴史が好きで、珠子という名前は、有名な細川ガラシャの日本名から付けられたのだが、珠子は政略結婚させられた姫たちの悲劇よりも、男たちを上手く扱い、上り詰めていった女性たちに憧れた。

珠子が特に憧れたのは、自分が生まれ育ったこの地、名古屋は江戸時代から徳川御三家である尾張徳川家が納めていた土地である。

 

故に、徳川幕府の歴史には詳しくなっていった。

 

その中でも、京都の八百屋の次女に生まれた庶民が、徳川三代将軍家光の側室となり、五代将軍綱吉の母になったという女性が、「お玉」という名であった事。

これが「玉の輿」の語源とされているという説が有力だと知ると、何処か親近感のようなものが沸き上がった。

 

名古屋らしい『見栄』の文化。

 

そこから、珠子は自分も「お玉」のような幸せを手に入れたいと願うようになった。

短大卒業と同時に、嫁入り修行をはじめ、セレブな男性との出会いを求めながら、出版会社の事務として働いた。

無難な生活を続けて、8年が経ち… 遂に「お玉」のような、チャンスを手に入れた。

 

それが、白壁の地主である西園寺家の一人息子だった。

まさに、自分はテレビで大ヒットを飛ばしているバチェラーに選ばれた、クイーンになれたような気がした。

 

粛々と婚礼の儀も進み、散々無作法はしないようにと鍛錬してきたかいもあり、結婚の儀も中盤に差し掛かかり、一瞬だけ気が抜けるお色直しの時間がやってきた。

お色直しも、着物を2回。そしてお披露目式で2回。友人知人のみの簡易の会で2回。

トータル6回は用意されている。

それも全てレンタルではなく、珠子の寸法に合わせて仕立てられた着物やドレスだ。

 

西園寺がどの程度の金額を今回の式にかけたのか、知人たちの中で話題となっているようだった。