槙さんの目は、きょとんと見開かれていた。「え?」と小さな声が聞こえる。
「……隠していて、すみません。僕も、槙さんと同じように以前、異性との間で嫌な思いをしたことがありまして……それから、たまに先程のように、フラッシュバックを起こしてしまうことがあるんです」
はじめから読む:御前崎薫は… vol.1~女が怖い~
「フラッシュ……バック……」
ぽつりと、槙さんが呟く。
「もしかして、以前、コンビニでお会いしたときも……?」
「はい。あれはちょうど……その原因となった相手から、同窓会の手紙が届いたばかりで……それからちょっと、頻発していて」
頭を搔きながら、ぐっと胸の詰まる思いがする。
――言ってしまった。言ったところで、どうしようもないのに。でも、目の前の槙さんが、僕のせいで自分を責めているのは、なんだか苦しかった。申し訳なかった。
でも――言ってしまったから。長年胸に溜め込んでいたなにかが、堰を破り出てきてしまう。
「僕、中学時代に、ラブレターをもらったことがあって。まぁそれが、コレの原因になったんですけど」
こんな時間に、こんな場所で、よく知りもしない相手に。僕はなにを話しているんだろう。でも、一度吐き出し始めた言葉は止まらない。
「努力家だって、褒めてもらってたんです。手紙の中で。僕は冴えないやつだったけど、それを褒めてもらえたのは嬉しかった。そんなふうに見てくれてる人がいるんだってことが、単純に嬉しくて……もちろん、中学生男子ですから、そんなふうに思ってくれる相手が女の子だったから、正直めちゃくちゃ嬉しかったですよ」
槙さんは黙っている。じっとこちらを見ながら、話を聞いてくれている。そのことに甘えて、口は動き続ける。
「でも結局、その手紙はウソの手紙で。呼び出された場所に行った僕は散々罵声を浴びせられて、暗い倉庫に閉じ込められました。バカみたいですよね、ほんと。バカみたいなんですけど……でもそれから、女性が――怖く、なってしまって」
言い切って。ずるずると、玄関の枠にもたれるようにしてしゃがみ込む。
「……情けない、ですよね。すみません。女性向けのコンテンツが、って話もウソです。槙さんと一緒に、僕も恐怖症を克服できたらと期待してたんです。ほんと、すみません……」
もう、槙さんの顔を見ることもできなかった。怖かった。社会的な立場もある、いい歳の男が、ほとんど話したこともない女性に弱みを晒して。それは槙さんが僕に自己開示をしてくれた理由とは違って。多分僕は、彼女に甘えてしまったからなだけで――。