家に着いてからも、その症状は残っていた。
――いつも勉強を頑張っていて、努力家な御前崎くんが好きです。
あの、最悪な手紙に書かれたフレーズが、何度も何度も頭の中で繰り返される。
(女性に……「努力家」って言われただけで……このダメージかよ……)
決して、悪い言葉ではないのに。実際、努力だってしてきたのに。なのにあの手紙のせいで、未だにこんなにも苦しい。
(槙さんに、悪いことしたな)
言い訳する余裕もなかった。気を悪くさせたかもしれない。
(男への嫌悪感が、これで悪化しなければ良いけど……)
深く息を吐き、ソファから立ち上がる。ようやく、水を飲むぐらいの気力は湧いてきた。
台所に向かうと、チャイムの音がした。インターホンの画面を見ると、槙さんが映っていた。少し迷って、通話ボタンを押す。
「……はい」
『すみません、槙ですが……』
「今日はすみません、突然に帰ってしまって」
先制して謝罪すると、慌てたように『いえ』と返ってくる。
『すみません。御前崎さんのご持病を知りながら、無理させてしまって……』
持病、と言われて思い出す。そう言えば、彼女の前で倒れかけるのは、これで二度目だった。
「違うんです。槙さんのせいではありません」
『いえ、でも。私……正直今回のお申し出、少し意地になっていた部分があって。そこまで思いが至らず、本当に……申し訳、なくて』
画面の向こうの彼女は、ますます身体を小さくしていて。それを自分がさせている勘違いのせいだと思うと、僕の胸もチクリとした。
僕は黙って通話を切り、ふらつく身体を支えながら玄関に向かった。扉を開けると、眉をハの字にした槙さんが、震えながら立っていて。
「違うんです」
ハッキリと言う。
「僕は――僕も、女性恐怖症なんです」
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自宅に訪ねてきた槙に女性恐怖症となった原因を徐々に語り始めた御前崎薫。その話しを静かに聴いていた槙の反応とは…!?