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「いらっしゃいませー」
明るく涼しい店内に入り、外との差に軽く身震いしながら、店内を物色する。
マンションから歩いて三分のコンビニは、僕にとって行きつけの店であり、休日もっとも食事を調達する店でもある。
「この時間だと弁当……あんまり残ってないかな……」
さっきパンドラの蓋を開けてしまったせいか、今一つ食欲が薄れてしまった感覚がある。
(もうプロテインでも良いかな……昼も飲んだけど。家にあるのと違う味でも買えば、少しは気分転換になるかね)
やや投げやりにそう思いながら、冷やされたプロテインドリンクに手を伸ばした――そのときだった。
「あ」
うっかり、横から伸びてきた手と重なり、慌てて引く。
白く、細い綺麗な手だった。――明らかに、女性の手だ。
心臓が、嫌な音を立てる。少し前に蘇ったばかりの感情が、生々しく頭と身体を覆っていく。背中に冷たい汗がぶわりと吹き出すのを感じた。
「――っ」
(落ち着け、俺――いつも、そこまでじゃないだろ。ただ、うっかり手が触ったからって)
そう自分に言い聞かせるものの、一度溢れた感情というものはそうすぐ引っ込むものでもないらしく、腕でぎゅっと身体を抑え込む。
と。
「――すみません、大丈夫ですか」
すぐ隣から、無機質な声が聞こえた。
あまりに感情を感じさせないその声に、思わずゆっくり顔を向けると。
声と同じくらいの無表情さで、女性がそこに立っていた。
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レジを済ませ店を出ようとすると、会計を先に終えていた手が触れてしまった女性と帰り道が一緒になってしまった御前崎薫。彼女は突然振り向き驚くような言葉を発する。