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自意識の塊で、鬱憤をため込んだ未成熟な子どもらが閉じ込められる、中学校という場所。
その頃の僕は、比較的大人しく、顔は思春期特有のニキビ面で、目立たず――はっきり言って、イケてない部類の存在だった。
中学生男子が校内で人権を得るには、第一に顔、そして第二に運動がきて第三にユーモア、そしてぎりぎり第四に勉強という条件が必要で、僕はその第四条件になんとか食い込んでいる程度。いじめを受けるようなこともなかったけれど、女子に見向きされるわけもなく。
それはそれで、似たような境遇の男子らとそこそこ平和にやり過ごす三年間――そうなるはずだった。
『御前崎くん。いつも勉強を頑張っていて、努力家な御前崎くんが好きです。放課後、体育館倉庫に来てください』
僕はバカだった。
バカで能天気で、やっぱり自意識の塊だったから、そんな手紙を信じてしまった。
のこのこ体育館倉庫にやってきた僕は、無人のそこに入るなり、後ろから重い扉を閉められた。
なにが起きたかなんて理解できず、茫然とする僕に、扉の外から複数の嘲りの笑い声が浴びせられた。
「本気にして来ちゃったよ! バッカじゃないのっ? 勘違いエロ男! きもっ!」
一番、はっきりと覚えているのはその言葉だった。
なにをバカと言われているのか、さっぱり分からなかった。
その声がクラスの女子のものだということは、すぐに気がついた。彼女がいつも学年テストで下の方の順位だということも知っていた。その彼女になんで常に学年上位の自分が「バカ」呼ばわりされるのか。意味が分からなかった。
もらった手紙の内容を信じた僕が、どうしてバカなのか。
だって僕は――ただ、嬉しかっただけなのに。
地味で目立たない僕を、見てくれている人がいると分かって。
地道に頑張っていることを、認めてくれる人がいると知って。
そんな素敵な人が――僕に好意を向けてくれているのだと、そう感じて。
ただ、嬉しかっただけなのに。
その喜びが「勘違い」で、しかも言われもなく「エロ」だなんて。
更には、たった二文字で人格を最大限に否定する「きも」という罵声。
僕は、努力して勉強して、目立ちもせず、ただ平和に中学生という時代をやり過ごしていただけなのに。
どうしてこんな想いをしなくてはいけないのか混乱し。暗闇と開かない扉と、そして顔の見えない複数の嘲りがそれを増長させて――ひたすら泣いて叫んで、いつしか笑い声が止んでいることにも気づかず、扉を叩き続けた。
僕が発見されたのは、夜、見回りの先生が体育館から聞こえる音に気がついてくれたからで。「どうしてこんなところに」と驚く先生に僕は、恥ずかしさのあまり本当のことを言えず、うっかりして閉じ込められてしまったとだけ話した。
僕を閉じ込められたやつらは当然、叱られることもなく、次の日なにごともなかったように過ごしていて、すでに僕のことなんか視界にも入っていないようで。彼女らにとってアレは単なる「ちょっとした遊び」でしかなかったのだと、そう気がつき。僕は。
それからというもの――女性という生き物が、怖くて怖くて、たまらなくなった。