NOVEL

「Lady. Bloody Mary」~女の嫉妬~ Vol.3

 

遂にクリスマスイブを迎える...スパダリ男子と仕事、どっちも欲しい!

欲深い美しき女性たちが遂に動き出す。聖夜を制するのは誰だ!?

 


 

前回「Lady. Bloody Mary」~女の嫉妬~ Vol.2

 

 

 

此処は、栄の中心にある貸切パーティバー。

そして密やかにはじまるハイスペ男子に、お近づきになりたい年代の異なる女性3名の静かな戦いが既にはじまっている。

安武聖奈が思わずスマホを取り出し、LINEでも...と言いかけた瞬間

「坂間さん、お酒お強いんですね。久々に見ました。ノブクリークのロック飲む人」

小竹紗夜は知的な口調で、グラスを片手に話しかけた。聖奈はその涼しげな声と紗夜の総務部での仕事っぷりは有名であったため、すっと身体を引く。

「そうなんです、最近好きになり始めて」

「じゃお家でも寝る前に、一杯とか?」

「ご名答です」

「坂間さん、申し遅れました。総務部の小竹紗夜と申します、よろしくお願いいたします」

「お話は伺っております...いや、しかしこれほどお綺麗な方々とお仕事ができるとは...光栄です、若輩者ですがよろしくお願いいたします」

こちらこそ、と3人は並んで改めて坂間と談笑する、こうなるともう誰も出し抜いて彼を引き抜くことなど無理だ。三宮リノがふふっと上品に微笑みながらさらりと輪に入っていった。

爽やかで低い甘い声に酔いながら、3人は目一杯の笑顔を浮かべながら心の中では互いの足を引っ張りあっている。

 

「坂間くん、こっちへ。紹介したい方がいる」

「あ、わかりました...では、また来週からよろしくお願いします」

頭を下げその場から去った後ろ姿を見つめながら、3人はふっと距離を取った。

「お客様、よろしければカクテルお作りいたしましょうか?」

バーテンダーが、気を利かせたのか3人にカウンターを進めた。

ああ、お願いするわ、貴方たちも飲むでしょ?とリノが後輩たちを誘う。

「来週からよろしくね、あたしは研究開発部の三宮リノ」

眼鏡をくいと上げながら高めの椅子に座り、身体を縮こませるのは小竹紗夜である

「総務部の小竹と申します」

まるでこちらの気持ちを逆撫でするように会話に入ってきた紗夜に、LINEを聞けなかった不満で拳をきゅっと握り、ほんの少し顔を曇らせる安武聖奈。

「オペレーション部の安武です、至らぬ点はあると思いますがまた教えてくださいね」

ちっ、若いと思って。と表情に出てしまったリノを横目に見るようにバーテンが

「こちら、トマトベースのカクテル”ブラッディマリー”でございます。お口に合えば」

3人の前には真っ赤なカクテルがそれぞれ置かれた。はじめて口にするカクテル。

 

 

そっと口をつけるとフルーティな後味とウォッカの独特の風味が残る。

「わっ!おいしー!」

無邪気に喜ぶのは聖奈だ

他の2人は静かに口にしていた。心を落ち着かせるのは酒が一番だ。

一息入れると、3人は改めて見つめあい微笑む。

 

「それが、このブラッディメアリーなんですねぇ〜」

「トマトベースだけど、結構ウォッカの味が強めのお酒ですね、酔っちゃいそう...」

「そこがいいんじゃない、大人のお酒、それにこの真っ赤な色を見てちょうだい。

情熱の赤よ」

 

ぐっとリノは真っ赤なカクテルを飲み干すと、既に坂間も他のメンバーも立ち去っていることに気づき

「あとはよろしく、お疲れ様」

と店を後にした。残された聖奈と紗夜はしばし顔を見合わせ、少し笑った。

 

 

顔合わせが終わって、本格的にプロジェクトが始動した。

プロジェクトメンバー用のオフィスが作られ、距離的にも非常に近く坂間と話したり接する機会が増えた。

坂間は男女関係なくフレンドリーな男性で、特に人によって対応を変えたりなどしないように見える男であった。

こんなハイスペ男性は存在するのか?甘いマスクと低音ボイス、そしてシャープな体躯。

「坂間さんっ!これ確認お願いします」

他部署の若い女子社員から、書類を手渡されるとにっこり微笑み

「ありがとう、早く資料も作ってくれたんだね、とても助かります」

と感謝の言葉を口にした。それを聞いた女子社員はぱああと笑顔を浮かべ礼をして去っていく。まるで頼れる兄かのように。

「坂間くん、この計画時期についてなんだけどこのまま進めてもいいのかしら?クライアントとの話は通っているのかな?」

坂間と隣の席で仕事をしていた、紗夜がそう尋ねると、うーんと手に持っていたペンを顎に置き、しばし考えたあとで

「そうですね、一度確認を取ってみましょうか」

「あ、なら私やりますね」

「いや、俺がやります。ついでに聞きたい案件もありますし」

同世代の同僚にはさりげない優しさと、レディーファーストが光る。

「あっ!遼くんー、お疲れ様。今日は飲み会だけどもちろんいくよね」

週末、リノ率いる女子社員が坂間との約束を勝手にこぎつけ鼻息荒くすり寄ってきた。

「ははは、もちろんですよ。名古屋の美味しいお店に案内してくれるんですよね」

「そうよー、今日は沢山美味しいものを食べさせてあげるわ」

満面の笑顔でキラキラのパールパウダーで顔を彩ったリノの言葉に

「リノ先輩、そんなこと言って酔い潰さないでくださいよ、お酒そんなに強くないんですから」

すっと細い指でリノの腕に触れる、ときめくリノ、女性社員は静かになった。

「じゃ、あとで」

男性には頼れる仕事ができる社員、女性にはそれぞれ対応を変え、誰も傷つけず接することのできる名古屋支社にはいない、ニュータイプの男性像であった。

 

 

そんな中、クリスマスが近づいてきた。

3人はそれぞれもう坂間と連絡先を交換しており、虎視眈々と仕事やプライベートで彼とのクリスマスの時間を取りたいと意気込んでいた。

聖奈以外、紗夜とリノには都合の良い身体関係のみの異性はいたものの、坂間を手に入れる事を優先したのだ。

初めに行動を起こしたのは紗夜だった。

「坂間先輩っ」

イブ前日、帰り支度をはじめた坂間に声を掛ける、聖奈の手には以前借りたままの彼のハンカチが握られていた。

「これ、お返ししようと思って」

「ああ、別に良かったのに。洗濯してくれたの?」

「はい、アイロンもかけさせていただきました」

「へえ、家庭的なんだね」

受け取ろうとした指から、すっとハンカチを自分の方へ寄せる聖奈。

目を輝かせながら、甘えるように坂間にこう声を掛けた。

「お礼に今夜ってお暇ですか?彼女とデート...とか?」

「いや、特に別にないよ。家に帰って酒でも飲んで明石家サンタ見ようと思ってた」

「あはは、一緒だ〜」

じゃあと聖奈は言葉を続けた

「私と、ご飯でも食べに行きませんか?」

少し考えたものの、いいよと軽く答えると2人は連れそうように帰社してゆく。

それを恨めしげに羨ましげに、遠くから見つめる女子社員たちの影。

 

”分かった?選ばれし者は、こうやって確実にアピールして女王の座を奪うのよ”