京子初のタワマンクリスマスパーティー! 豪華な会と参加者たちの闇とは?
前回:勝ち組妻 Vol.2 ~タワマンに住む専業主婦の願い~
時刻は10時45分。
タワーマンションのパーティールームで開かれるクリスマスパーティーは、思ったよりも賑やかだった。
パーティーモールが奥の壁に下向きのアーチ状に飾られ、その下には金色の雪の結晶型のウォールステッカーが貼られている。
クリスマスツリーは部屋の奥に少しのオーナメントと共にどんと佇んでいた。
子供の高さに合わせられているのだろうか、そんなに大きくはない。
壁沿いにはミーティングテーブルが連ねられ、白いテーブルクロスが敷いてある。
その上には白や銀の皿に乗せられた料理の数々が鎮座している。
―ケータリングなのね。
シェフらしき人が料理のセッティングをしていた。
中央には同じく白いテーブルクロスのかかった四角い机が6つほど。
椅子は1つのテーブルにつき6脚並べられていた。
―開始まで、もう少しね。
入口で受け取った、ペリエ・ジュエ・ベルエポックをいただく。
グラスに注がれるときに見えたボトルは、白いアネモネが優美に咲くものだった。
その味も、ボトルのイメージ通りに繊細で優雅だ。
寒いだろうからとカーディガンを羽織ってきたが、暖房が効いているようで部屋は暖かい。
寒がりの京子にはありがたかった。
全員ここの住人なのだろう、大人から子供までぞろぞろと集まり始めていた。
女性はおしゃれなパンツスタイルの人もいるが、ワンピースの人のほうが多い。
場違いな服装でないことに、京子はとりあえずホッとした。
手持ち無沙汰のため、シャンパンを片手にその場にボーッと立ち、始まるまで会場の様子を眺めていることにした。
「わっ!」
突然足に衝撃を感じてわずかに声を漏らす。
驚いて振り返ると、灰色のタキシードを着た男の子と目があった。
紺色のシャツに明るい茶色の靴でばっちりおめかしした姿が、なんだか大人びていた。
年齢は…5歳くらいだろうか。
「すみません…!」
すぐに母親らしき女性が慌てて駆け寄ってきて、子供の手を強めに引く。
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
「ほら、拓海もごめんなさいして。」
母親の鬼気迫る様子に、思わず引いてしまいそうになる。
「いやだ!」
子供は母親の手を振りほどき、ツリーの方へ走っていってしまった。
「拓海!」
周りを気にしてか、抑え目の声量だが強い語気で言う。
「もう…。」
母親のついたため息が虚しく消え、京子は胸を痛める。
「大丈夫ですよ。お気になさらないでください。」
声をかけると、母親は申し訳なさそうに謝った。
「えー、みなさん。本日はクリスマスパーティーにお集まりいただきありがとうございます。」
11時を回ったころ、主催者らしき人が声をあげる。
「今回もお子様からお年寄りの方まで、多くの方にお越しいただきました。住人同士交流を深め、楽しい会にしましょう。」
クリスマスパーティーといっても、ビンゴ大会などの遊びがあるわけでもなく、主に食事を楽しむ会のようだ。
バイキング形式のようで、みなそれぞれ思い思いに料理を運んでくる。
『トリュフ風味のクロケット』
『ローストビーフ 芳醇な赤ワインソースをまとって』
『白身魚のポワレ ブールブランソース』
料理のそばに置かれた札には、明朝体の黒文字でおしゃれな料理名が書かれていた。
―年齢を重ねると脂っこいものは胃がもたれてしまうわ。
ライスコロッケを横目に、生ハムとピクルスの盛り合わせに手を伸ばした時だった。