美佐恵は自分より2歳年上の同僚だった。
沙耶香が東京支社から名古屋の本社に移動になったとき。
美佐恵も同じ部署に配属された。
他の会社に居たらしいが親の縁故で中途採用されたらしかった。
「大学はどちらなの?」
もう一度、シフォンの女性が訊ねてくる。
胸元に着いた同じシフォン素材の花が風に揺れる。
「神戸の女子大です」
「そうなの。お父様は何をなさっているのかしら?」
質問は続く。
(何でこんな身辺調査みたいなこと・・)
答えるのも面倒で口を噤(つぐ)む。
「電機メーカーの部長さんよね?お父様」
ふいに美佐恵が声をあげる。
「お母様はお花の先生だったかしら。お兄様は学校の先生」
家庭環境をすらすら話されてさすがの沙耶香も息を飲んだ。
(なんで・・話したことないのに)
「人事に知り合いがいるの」
そう言えば・・。
最近美佐恵が人事部の女子社員とよく一緒に居たことを思い出す。
自分のことを話しているとは思わなかったけれど。
不快感を隠しきれず、沙耶香は美佐恵に非難の目を向ける。
「だってほら、紹介してほしいって仰ったから。知っていないと、ね?」
美佐恵は悪びれず笑いながら答えた。
「へー、部長さん」
紹介された新城が合いの手を入れた。
「美佐恵と同じ部署だからどっかのお嬢様かと思ったけど」
前髪越しに見える瞳に意地の悪さが宿っている。