晴れた日なら見事な視界が開けるパノラマ・コース。
今は靄(もや)が掛かって閉ざされている。
全長3,500mだが、もう何度も滑走している。
(多少視界が悪くても大丈夫)
静音はバックルを留めると雪原に踏み出した。
途中まで、何事もなく降りていった。
天候は晴れてはいないが、嵐というほどではない。
端の白樺並木に目をやりながら安堵の息を吐く。
(無事、降りられそうね)
視線を落とした次の瞬間だった。
前を滑走していた佳奈の姿がふいに消えた。
(え、なに?)
白いゲレンデに真っ白なウエア。
佳奈が転倒したのだと気付いたときには全てが遅かった。
(あぶない!)
止まるには距離がなさすぎる。
このままぶつかると大怪我になる!
瞬間、静音は体を無理やり旋回させた。
なんとかなる。と思われた。
が、視線を向けた先に小学生くらいの少女が立ち尽くしていた。
瞳と瞳が交差した。
(いけない!!避けて!!!)
静音は声にならない叫び声をあげた。
ほんの数秒。
けれどスローモーションを見るように景色が移り変わった。
まるでビデオのコマ送りを見ているような光景を静音は今も思い出す。
バランスを大きく崩しながら宙を舞った静音の先に少女は居た。
無理に捻った体は完全に反転し大きく仰け反った。
衝撃でスキー板が1本外れて飛んでいった。
もう1本は足に絡まったらしく、ゴキッという嫌な音を立てた。