カラカラと風見鶏が回る音が響く。
いつの間にか嵐は過ぎ去っている。
梅雨明けの一夜。
激しい雨は何もかも押し流して再び静寂な夜が訪れている。
前回▶noblesse oblige vol.4~仄暗い闇の中~
はじめから読む▶noblesse oblige vol.1~いつもの夕暮れに~
庭木が揺れるのがガラス越しに見える。
ゆらゆらと月明かりに映る枝葉。
その姿があの日の白樺を思い起こさせる。
胸が詰まる気がして静音は深く息を吸い込んだ。
- 回想 〜断ち切れない鎖〜
ゴンドラを降りて駅の外に出ると風が吹き抜けた。
カフェテリアを出たときより天候は荒れてきたようだ。
まだ辛うじて視界はあるが心許ない。
「沙耶香、行ける?」
「ええ、平気」
声を掛けられた女性はグローブをはめながら、頷いている。
「瑞穂、大丈夫?」
すべて彼女に任せるといった顔つきで友人に尋ねられている。
「まぁ、私は」
(? 私は、ってどういう意味かしら)
少し気になって声の方に視線を向ける。
瑞穂と呼ばれた女性は静音の方を見つめていた。
射るような視線から逃れ難い。
瑞穂が柔らかな、けれど凛とした声で話しかけてきた。
「あなたは引き返した方がいいわ」
唐突に言われ、戸惑う。
答える間もなく佳奈が口を挟んだ。
「やだ、あなた何でそんなこというの?大丈夫よ。ねぇ、静音」
嫌な予感はあった。
本当ならそれに従うのがいつもの静音だったのに・・。
帰りの時間も気になるし、佳奈を説得するのは骨が折れそうだ。
そんな理由で決断してしまった。
「ゆっくり行きましょう」
決心したように呟いた静音を見て、瑞穂は軽く息を吐いた。
「気をつけてね」
その言い方が祈りのようで、静音はもう一度瑞穂と視線を交わした。
「天候が悪くなっております。みなさまお気をつけてください」
スタッフの声に押されるように外に出る。
ひとつ前のゴンドラに乗っていた大学生らしいグループも滑り出した。