特別な仕事ができる訳ではないと自分で思う。
ただその能力が、会社の進むべき道筋を決めてきた。
言葉では説明できない「運の流れ」を掴むことが上手いと言えば良いのだろうか。
どれほど大きな企業でもトップの判断が全て。
舵を取り切れるか。
瑞穂の能力は、そこに集約していて決して見間違えない。
だからこそ、この状態なのだ。
「何もしなくて良い」ではなく「他の道は選べない」
裕福の裏返しは退屈。
瑞穂は実のところ、飽き飽きしている。
結婚が一つのきっかけになるなら、してみても良い。
そんな風に思える。
上流層は違う、といわれる事がある。
あながち嘘ではない。
それを迷信と笑う人もいる。ほとんどの場合、信じることさえ難しいだろう。
けれど確かに、存在することを瑞穂は身をもって知っている。
その上で、自分の人生を見当のつかない方向へ転がしてみたいと思ってもいた。
「瑞穂さん?」
透が拗ねたように声を掛けた。
「ごめんね。少し、考えごと」
やはり仕草が可愛いと透に笑顔をむける。
不意に風が吹き込んで、テーブルの上の花を揺らす。
まだ知らない出会いがある予感がして瑞穂は一層深く、微笑んだ。
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