NOVEL

noblesse oblige vol.3~閃光の行方~

「卒業するまで待っててよ」

甘えたような声で透が囁く。

「君、そればっかりね」

幼子にするように前髪を優しく撫でながら小首を傾げた。

「子供扱いしないで。卒業して医者になったらちゃんと出来るよ」

「そう?」

目を細める瑞穂を見て、透は真剣な瞳で返してくる。

「本気だよ、俺。瑞穂さんが好きなんだ」

「ありがとう。私も好きよ」

 

ドバイのパーティーに友人に誘われて出席した瑞穂。

たまたま家族旅行で滞在していた透に出会ったのだ。

それから1年半ほど、休みを合わせて会ってきた。

 

「でもね、君が卒業する頃、私歳になっちゃう」

「関係ないよ」

「んー、今はそうだけどね」

 

顔を赤くして、少し怒っている透の様子は可愛い。

それはルイに感じるものと近い。

可愛いと感じている時点で瑞穂にとって透はパートナーでは、ない。

あくまでも「愛しい存在」に過ぎない。

 

同年代の女子にはモテるだろう。

今どきの整った顔つき。柔らかなウェーブのかかった髪。引き締まったボディ。

言い方を変えるとお気に入りのペットのようなもの。

こんなことを言うと、きっと怒るだろうけれど。

 

瑞穂は幼い頃から妙にシビアだ。

それは生まれつきの能力に関係するかもしれない。

幼稚園のときから家には多くの人が訪れた。

父の仕事関係の人脈が多かった。

 

「みぃちゃん、どうだった?」

彼らが帰った後、父は必ず膝に瑞穂を乗せてそう尋ねた。

「田中のおじさまは、嫌い」

「実馬のおじいさまは好き」

そんな程度の答え。

 

けれど瑞穂の直感は間違いなかった。

誰が謀るか、誰が味方なのか。

本人が意識していなくても、瑞穂には読み取れた。

厄介な、けれど貴重な能力が瑞穂にはあった。

大きくなってもそれは衰えない。