「卒業するまで待っててよ」
甘えたような声で透が囁く。
「君、そればっかりね」
幼子にするように前髪を優しく撫でながら小首を傾げた。
「子供扱いしないで。卒業して医者になったらちゃんと出来るよ」
「そう?」
目を細める瑞穂を見て、透は真剣な瞳で返してくる。
「本気だよ、俺。瑞穂さんが好きなんだ」
「ありがとう。私も好きよ」
ドバイのパーティーに友人に誘われて出席した瑞穂。
たまたま家族旅行で滞在していた透に出会ったのだ。
それから1年半ほど、休みを合わせて会ってきた。
「でもね、君が卒業する頃、私歳になっちゃう」
「関係ないよ」
「んー、今はそうだけどね」
顔を赤くして、少し怒っている透の様子は可愛い。
それはルイに感じるものと近い。
可愛いと感じている時点で瑞穂にとって透はパートナーでは、ない。
あくまでも「愛しい存在」に過ぎない。
同年代の女子にはモテるだろう。
今どきの整った顔つき。柔らかなウェーブのかかった髪。引き締まったボディ。
言い方を変えるとお気に入りのペットのようなもの。
こんなことを言うと、きっと怒るだろうけれど。
瑞穂は幼い頃から妙にシビアだ。
それは生まれつきの能力に関係するかもしれない。
幼稚園のときから家には多くの人が訪れた。
父の仕事関係の人脈が多かった。
「みぃちゃん、どうだった?」
彼らが帰った後、父は必ず膝に瑞穂を乗せてそう尋ねた。
「田中のおじさまは、嫌い」
「実馬のおじいさまは好き」
そんな程度の答え。
けれど瑞穂の直感は間違いなかった。
誰が謀るか、誰が味方なのか。
本人が意識していなくても、瑞穂には読み取れた。
厄介な、けれど貴重な能力が瑞穂にはあった。
大きくなってもそれは衰えない。