「冷たくなってるよ」
透が背中から抱きしめる。
「そう?あたたかい」
瑞穂が首をすくめながら答える。
柔らかな香りが瑞穂を包む。
透のムスクが薫ってくる。
「この匂い、雨の匂いの次に好きよ」
それには答えず、腕の中の瑞穂を包む手に力が入る。
腕から逃げ出さないように。
朝が来るまで、もう少し余韻に浸っていようと決めた。
嵐のあと
窓の外は晴れ渡っている。
雲ひとつない快晴。
バルコニーから見える海も穏やかだ。
「瑞穂さん、今日の予定は?」
先に起きてシャワーを浴びたらしい。
透が濡れた髪をタオルで拭きながら近づいて、軽くキスをする。
「そうね、どうしようかな」
髪をまとめながら思案する。
「午後から予定があるのよね」
「なに?」
「お見合い前のお手入れ」
苦笑混じりに、あいさつを交わす軽さで返す。
「・・・」
透が真剣な瞳を向けてくる。
「瑞穂さん、早く結婚したいの?」
「んー。そうでもない・・けど、しても良いかも」
エルメスのシャツを素肌に羽織りながら、透に目を向ける。
「だって退屈なの」
ボタンを留めながら答える。
「そればっかりだね。僕は?」
「んー君は、まだまだ勉強でしょう?」
22歳の透は医学生。
秋からは本格的に実習が始まる。
これまでのように頻繁には会えなくなるだろう。