NOVEL

noblesse oblige vol.3~閃光の行方~

「冷たくなってるよ」

透が背中から抱きしめる。

「そう?あたたかい」

瑞穂が首をすくめながら答える。

柔らかな香りが瑞穂を包む。

透のムスクが薫ってくる。

「この匂い、雨の匂いの次に好きよ」

それには答えず、腕の中の瑞穂を包む手に力が入る。

腕から逃げ出さないように。

朝が来るまで、もう少し余韻に浸っていようと決めた。

 

嵐のあと

窓の外は晴れ渡っている。

雲ひとつない快晴。

 

バルコニーから見える海も穏やかだ。

 

「瑞穂さん、今日の予定は?」

 

先に起きてシャワーを浴びたらしい。

透が濡れた髪をタオルで拭きながら近づいて、軽くキスをする。

 

「そうね、どうしようかな」

髪をまとめながら思案する。

 

「午後から予定があるのよね」

「なに?」

「お見合い前のお手入れ」

苦笑混じりに、あいさつを交わす軽さで返す。

「・・・」

透が真剣な瞳を向けてくる。

 

「瑞穂さん、早く結婚したいの?」

「んー。そうでもない・・けど、しても良いかも」

エルメスのシャツを素肌に羽織りながら、透に目を向ける。

「だって退屈なの」

ボタンを留めながら答える。

「そればっかりだね。僕は?」

「んー君は、まだまだ勉強でしょう?」

 

22歳の透は医学生。

秋からは本格的に実習が始まる。

これまでのように頻繁には会えなくなるだろう。