「見えますか?」瑞穂が尋ねる。
「ええ。あなたにも?」真司も同じように返した。
「ぼくたちは疲弊するばかりです。心を保つには強い力が要る」
「そうね。私たちに擦り寄らない誠が必要」
「幸いなことに互いに出会えているのだと思いますよ」
「本当の意味で“玉の輿”を知る女性は貴重ですもの」
具体的な意味合いを感じて真司が尋ねる。
「もしかして彼女をご存知ですか?」
「ええ、深いお付き合いなのですぐ分かりましたわ」
真司と今日、初めて顔を合わせたとき少し驚いた。
傍に沙耶香の姿が見えたから。
「東京にいたときに知り合いましてね」
「でも彼女は知らないでしょう?あなたのこと」
「ええ、きっと嫌な奴だと思われていると思いますよ」
真司が肩を竦めてみせる。
「きっと大丈夫ですわ」
瑞穂が確信を持って言う。
「あなたがそう仰るなら間違いないですね」
嬉しそうに真司が返して、こう続けた。
「ネコのような人ですね。あなたの彼は」
瑞穂はやはりと思いながら答える。
「でしょう?とても可愛いですよ」
真司の目には同じく、瑞穂の傍に透が見えた。
沙耶香と透。ふたりは本当によく似ていると瑞穂は思う。
容姿ではなく“魂”が、だ。
地位や富に集まる人間は少なくない。
けれど魂に惹きつけられる人間は少ない。
なぜならそれに気づくことが難しいから。
瑞穂や透のような人間にとって澄んだ心をもつ二人は何ものにも代え難い。
「私も決めましたわ」
ほんの少し抱いていた迷いを振り切って瑞穂は前を向く。
「そうなさるのが良いですよ。彼らは僕たちが気づかないことを教えてくれる」