NOVEL

家にも外にも居場所がない vol.7~悪意と嘘が真実を覆す日~

良家の娘として母親に厳しく育てられ、遊ぶ自由すらなかった清美。

そろそろいい歳だからと母からお見合いを持ち掛けられ渋々了承するが、1人目は自身の決断力のなさと母親の傲慢な言動で破談。失意の中で2人目のお相手を紹介される。

最初は良好な関係を築いていると思っていた清美だったが、彼の家に通うようになってから相手の態度が急変。

傲慢で自分勝手な振る舞いが増え、清美を家政婦のように扱う。更には彼の姉にまで雑用をやらされ、いったい何のために付き合っているのかわからなくなってしまう。

恋愛とは程遠い関係の中で清美はいったいどう行動するのか……?

 


前回:家にも外にも居場所がない vol.6~笑顔の下に潜んだ本性~

 

琢磨さんとの関係が滞っていたある日。私はついに我慢できずに母に相談しました。彼の態度が乱暴なこと、彼の姉からも酷い扱いを受けていること。これでは結婚などできないと言いました。

 

「男女の仲ですもの倦怠期くらいあるでしょう? それくらい我慢しなさい」

 

しかし、母はとても楽観的で私の言うことなど聞いてくれませんでした。

 

「違うの、飽きてきたとかそういうことじゃなくて!」

「第一あんなに気配りできて優しい琢磨さんがそんな酷い性格なわけないでしょう? きっと疲れてるだけなのよ。あなたがしっかり支えてあげないでどうするの?」

 

ではいったい私が辛い時は誰が支えてくれるのでしょうか?

琢磨さんが疲れているという可能性がないわけではないです。ですが、かれこれ数か月以上経っています。そして彼が今忙しい時期でないことは聞いています。疲れでストレスが溜まっているとは到底思えません。

 

「結婚したらこれから辛い事だってたくさんあるんだからこれくらい乗り越えないと、いい夫婦にはなれないわよ?」

 

恋人を家政婦のように扱う事が夫婦だと言うのなら私は真っ平ごめんです。正直我慢の限界でした。

母は楽観的であてにならず、琢磨さんも姉の泉さんも私をぞんざいに扱う。ここはもう、恥を忍んで琢磨さんのお義母さまに相談するしかありません。付き合っている相手の親に子の粗暴な態度を報告するというのはなんだか気が引けますが、このままでは私は奴隷じみた生活を続けることになります。

なんとかお義母さまに執り成してもらい、穏便に別れようと思っていました。

 

休日、ひっそりと琢磨さんの実家へ向かいました。家の門をくぐると魔の悪いことに、泉さんと会ってしまいました。

 

「あら清美さんじゃない。ちょうどよかったわ。頼みがあるんだけど」

「はい……何でしょうか」

「要らない物まとめて捨てようと思ってて。そこに積んである雑誌とか捨てといてくれない?」

 

嫌と言ったらきっと怒鳴られたり陰湿な嫌がらせをされるでしょう。私は何かされるのも怖いので、嫌々ながらもその作業を引き受けました。

 

「助かるわ~、よろしくー」

 

そう言って泉さんは出て行きました。きっと買い物かなにかに行くのでしょう。私は言われた通りに積み上げられた雑誌や本の束を集積所へ運んで行きました。思いのほか量があり何往復かしてやっと運び終わったのですが、積み上げた束のなかにやたら装飾の良い本があったことに気が付きました。

 

その背表紙を見ると大学の卒業アルバムでとても驚きました。まさかこの世に卒業アルバムを捨てる人がいるとは思いませんでしたから。それほど有名大学のものではありませんでしたが、大切な思い出が詰まったものなのではないでしょうか?

何かの間違いで一緒にまとめてしまったのか、でもあんな目立つ本を間違えて縛るとは考えにくいので、きっと自分から捨てたのでしょう。