「お母さんには私から言っておくよ。お前が自分で決めたなら止めない。何かあったら私に電話しなさい」
事務的に、平坦な声で父は言いました。
「落ち着いたら、その人と一緒に挨拶へ来なさい。私は反対しない」
「わかった。ありがとう」
私がそう言って少し間が空いた後、
「お前のことを、よく見てやれなくてごめんよ」
父は泣きそうな声でそう言って、電話を切りました。
「……」
変な気持ちが、私の胸の中にありました。
健一さんの家に戻り、そのことを報告すると、
「そうか……。きっとお父さんがお母さんを説得してくれるよ。落ち着いたらふたりで挨拶に行こう」
「はい……」
私はもっと、家族と話すべきだったのかもしれません。
それから数か月。
健一さんと結婚することが決まり、本格的に式の準備などに入りました。
その時、改まって父に連絡すると母も結婚を認めてくれたそうです。
納得はしていないそうですが、娘を本当に大切だと思うなら結婚を許してやれと、父に言われたそうです。
きっと他にも多くの会話が両親の間であったのでしょうが父は何も言いませんでした。
こうして、晴れて私は自分で選ぶ自由と、自分で選んだ人と結ばれることになったのです。
色々上手くいかないことがありましたが、今は健一さんと幸せに暮らしています。
どこにも居場所がなくても、自分受け入れてくれる人がいるだけでとても救われるのだと、私は健一さんと一緒になって知ったのでした。
<The End>
前回の話▶家にも外にも居場所がない Vol.9~運命の出会い~
はじめから読む▶家にも外にも居場所がない vol.1 ~言いなりの人生~