帰って子供たちの寝顔を見て、安心していた。
なぜなら、いつも花瓶に新しい花が飾られていたからだ。
三人でこれからも頑張ろうと誓ってくれた奈緒が、父親に相談するほど参っていたなんて考えもしなかった。
「奈緒が…奈緒が言ったの?!私と暮らしたくないって言ったの??」
「ああ。お前が遊び惚けている間にな。
今日から俺の実家から学校に通わせる。お前は勝手にしろ。
そんな調子で、子ども殺しとかしないでくれよ。
一応は、元妻なんだ。俺の仕事の邪魔をするな。奈緒の未来の邪魔もするな!」
言いたい放題言われても、玲子の頭は瞬時に回らない。
「なによ…あんただって、こんなとこ、来てるじゃない!!」
「ただの、接待だ!…この毒親が!」
玲子の周りの時間が全て止まり、モノクロの世界に迷いこんだような気がした。
―やめて、私から、光を取り上げないで…―
【RedROSE】と書かれたドアが開く。
ラメが入っている白いタイトなドレスが輝いて見えた。
でも、それは天使でも女神でもない。
最低最悪の相手『レイラ』だった。
「どうされたんですか?店の前で怒鳴り合うなんて…お知合い…だったんですね。梶さん」
レイラが丁寧に髪をかき上げながら、リナには一瞥も向けずに梶の高級なスーツの腕に陶器のような腕を絡めた。
「皆様揃って乾杯なので、いらしてください」
「…ああ、すまん」
梶は玲子に背を向けて店内に消えていく。
レイラはその後ろ姿を見送り、リナに視線を落とした。
「私、お知合いだって知らなかったんです。酷いお顔なので、落ち着いたら入ってきてくださいね。どうせ待たせてるの、客じゃなくてご友人でしょ?」
そう告げると、ドアが閉まる。
光が消えていく。
【RedROSE】の文字が、リナと玲子を切り裂いていく。
今すぐ帰ったら、奈緒が「お帰り」と笑ってくれるような気がする。
「今日の花は…なに?」
リナは瞬きを忘れたように動けないでいた。
どの位夜風に当たったままだったのか分からない。
【RedROSE】の文字が急に消えて、再びドアが開いた時にいたのはボーイの川内君だった。