NOVEL

【錦の女】vol.9 ~凶悪~

帰って子供たちの寝顔を見て、安心していた。

なぜなら、いつも花瓶に新しい花が飾られていたからだ。

 

三人でこれからも頑張ろうと誓ってくれた奈緒が、父親に相談するほど参っていたなんて考えもしなかった。

 

「奈緒が…奈緒が言ったの?!私と暮らしたくないって言ったの??」

「ああ。お前が遊び惚けている間にな。

今日から俺の実家から学校に通わせる。お前は勝手にしろ。

そんな調子で、子ども殺しとかしないでくれよ。

一応は、元妻なんだ。俺の仕事の邪魔をするな。奈緒の未来の邪魔もするな!」

 

言いたい放題言われても、玲子の頭は瞬時に回らない。

 

「なによ…あんただって、こんなとこ、来てるじゃない!!」

「ただの、接待だ!…この毒親が!」

 

玲子の周りの時間が全て止まり、モノクロの世界に迷いこんだような気がした。

 

―やめて、私から、光を取り上げないで…―

 

【RedROSE】と書かれたドアが開く。

 

ラメが入っている白いタイトなドレスが輝いて見えた。

でも、それは天使でも女神でもない。

最低最悪の相手『レイラ』だった。

 

「どうされたんですか?店の前で怒鳴り合うなんて…お知合い…だったんですね。梶さん」

 

レイラが丁寧に髪をかき上げながら、リナには一瞥も向けずに梶の高級なスーツの腕に陶器のような腕を絡めた。

 

「皆様揃って乾杯なので、いらしてください」

「…ああ、すまん」

 

梶は玲子に背を向けて店内に消えていく。

レイラはその後ろ姿を見送り、リナに視線を落とした。

 

「私、お知合いだって知らなかったんです。酷いお顔なので、落ち着いたら入ってきてくださいね。どうせ待たせてるの、客じゃなくてご友人でしょ?」

 

そう告げると、ドアが閉まる。

光が消えていく。

【RedROSE】の文字が、リナと玲子を切り裂いていく。

 

今すぐ帰ったら、奈緒が「お帰り」と笑ってくれるような気がする。

 

「今日の花は…なに?」

 

リナは瞬きを忘れたように動けないでいた。

 

どの位夜風に当たったままだったのか分からない。

【RedROSE】の文字が急に消えて、再びドアが開いた時にいたのはボーイの川内君だった。