静かに獲物を狙っていた雌豹が、遂に牙を剥く。
大切なモノを奪われた女は、目には目を歯には歯を…!
慎重に全ての牌を揃え、完全なる仕返しの牙が玲子を貫く!
はじめから読む▶【錦の女】vol.1~「リナ」という名まえ~
ノンちゃんことのぞみと共に、リナは初めて同伴という形で【RedROSE】に出勤した。
女性客と同伴というのも変な感じではあるが、その相手がノンちゃんならばあり得ると何も言われない。
昼から散々遊びあかした後のビールは美味しい。
2人で機嫌よく乾杯をして、30分程経った時だった。
今日は団体客の予約があるからと、店内の奥の二人席に座ってラウンジでの接待というよりは、普通にガールズトークを楽しむように話していた。団体客を呼んだのはママではなく、レイラだったようで先導して案内をしている。
綺麗な背中を露わにしたドレスを身に纏う後ろ姿を見て、のぞみは舌打ちをするが、リナは『まぁまぁ…』とビールを注ぐ。
その時だった…。
2人のテーブルの方に、シックなグレーのスーツを身に纏い、胸元にはそれと解るバッチが輝く男が近づいてくる。
既にほろ酔いのリナが視線を上げ、一瞬で固まった。
目の前には、元夫である梶道隆が立っていたのだ。
「誰やねん」
リナより先に、のぞみがその不躾な行動に文句を吐き捨てた。
「ノンちゃん…ごめん、ちょっとだけ席外していいかな?」
さっき迄ピンクに火照っていたリナの顔面が、急に青ざめる。
のぞみの返答を待たずに、リナは席を立ち、梶の腕を引いて入り口付近まで連れて行った。梶もその誘導に素直に従ってくれたが、それが余計に怖かった。
ママやボーイたちは団体客の座席や用意に追われている為、リナは黙ったまま店外に元旦那を押し出す。リナがゆっくりドアを閉めて振り返る隙もなく、梶は無感情な言葉をリナにぶつけて来た。
「ホスト狂いからのホステスとは、相変わらず代わり映えしないやつだな!
深夜まで家を空けて、泥酔して帰って、奈緒がお前のガキの世話も家事もしてると思ったら、こういう事だったのか。とことん進歩のない…最低な女だな!」
「ちょ…!!!」
戸籍的には無関係になった男にそこまで言われる筋合いはない!
一瞬にして玲子に戻り口を開こうとした時、先に有無を言わせずに引導が渡される。
「奈緒と話した。大学進学までしたいそうだ。
高校受験の為に、塾にも本当は通いたいと思っているみたいだし、もうお前には任せられない。親権は俺にあるんだ。今日帰っても、奈緒は居ないからな。アイツは、お前のベビーシッターでも召使でもない!いい加減にしろ!」
結婚生活を共に過ごしている間もリナの浮気がバレて、妊娠が分かった時でさえも、道隆はこんな乱暴な口の利き方をしたことはなかった。
確かに、ここ数週間はのぞみのおかげで毎晩酔って帰宅していたし、上りの時間をオーバーした日も多かった。