軽いノリで返される声に苛立ちを感じるのは、きっと玲子だけではないのだろう。
一緒にテーブルセットを行っていたボーイの川内君も、少しだけ苦笑いを浮かべていた。
「ママ~。今日、中島さんが来るんで、よろしく!!」
「はーい。いつも、有難うね。レイラちゃん」
ママに対してもタメ語を使う、その不躾な態度も22歳と若いから…というだけで許せるほど、玲子は寛容な気持ちになれなかった。
明るい髪色は、常にトレンドを追いかけてなのか、アッシュ系だったりピンク系だったりと毎月変わっていく。
【RedROSE】は他のラウンジよりも高級感を売りにしている店だ。
ギャルの派手さよりも、シックな大人のイメージに沿う女性が多い中、レイラだけは自分のスタイルを崩さない。
悪目立ちして客からクレームが入るようなら、指摘のしようもあるのだろうが、レイラは店で初めて会った客さえも自分の顧客にしてしまう。
それがまた、ある意味タチが悪い。
こんな風に考えてしまうのも、玲子自身が夜の女としての自信がないからなのだろう。
そんな事を思いあぐねていると、しょーこママが玲子の肩に手を添える。
「リナちゃん!いつも有難うね。もういいわ、あなたも準備してきていいわよ」
「・・・はい」
「笑顔、笑顔!!」
夜の街でたくさんの人間模様を見て来たママには、何もかもがお見通しと言いたげな表情を見せられ、玲子も思わず眉を下げた。
ホステス専用の控室は、まるでスタジオのメイクルームのようになっている。
黄色味がかったライトが眩しく、鏡台のカウンターは3席。
壁に鏡が埋め込まれており、それとは別に全身鏡も用意されている。
広さは4畳半くらいあるのだが、その半分を女の子たちの荷物置き場とドレスやスーツのハンガーが置かれ、入り口には派手なヒールばかり並ぶ棚が置いてあるので狭く感じる。
既に準備を終えている古参組は、早々とホールに出てしまったようだ。
控室にはレイラとその取り巻き3人が居た。
レイラともう一人が鏡台を使い、後の二人は床に座り込んでいる。
奥にある荷物置き場に行きたくても、入りにくい。
「あのぅ、ちょっと失礼します」
ちょっとは共用空間である意識をもってほしいと思いながら、玲子が声を掛ける。
それを鏡越しに見ていたレイラが、テカテカにグロスで光っている形のいい唇を歪ませた。
〝これでもか″と言わんばかりにマツエクをバタバタさせている。