NOVEL

【錦の女】vol.10最終回~スタートライン~

「な…お…?」

奈緒が黙ったまま、玲子に抱きついてくる。

 

「ごめんね。お母さん…

私ね、私…お母さんが大好きだよ。だからね…だから、頑張るお母さんの邪魔に…」

奈緒が息を詰めながら玲子に縋(すが)りついてくる。

顔をすり合わせ、それがどちらの涙なのか解らなくなるくらいに。

 

「奈緒…少しだけお母さんに時間をちょうだい。逃げたくないの。

もう、逃げたりしないから…絶対に迎えに行くから!!」

 

玲子はリナである自分からも、裕也の母親としての自分からも逃げたくはなかった。

何もなかった自分を救い上げてくれたママへ、そして…憎しみという形でしか出会えなかったレイラへ。

奈緒と裕也の母親である自分へ。

 

全てのケジメを付けて、胸を張って奈緒とまた3人で笑い合える家族になるために【RedROSE】に戻る事を決めた。

 

レイラは頬と首に残る大きな痣を隠すことなく、出勤してきた。

流石だと思う。

玲子は改めてレイラに謝罪した。

あくまでも、中村玲子として。

 

しかし、裕也は自分が産んだ子供であり、裕也の家族は玲子と奈緒であることを告げる。

それをレイラが受け入れる日が来なくても、揺るぎない決意として共に【RedROSE】に咲く花になりたい。

 

そして、自立できる準備が出来た時に、親友の「りな」に『リナ』の卒業を報告したい。

過去には戻れないし、戻る必要もない。

裕也が今生きている事を否定しない。

自分が『親』になる、自覚だと思った。

 

それでも、錦の夜に咲く花としてできるところまでやり切る。

 

―私は、誰からも逃げたりしない!―

 

ゴールテープの先には、またスタートラインと大輪の花が自分を見つめていてくれるはずだから。

玲子はのぞみにも連絡を入れた。

 

『今からでも遅くないから、ちゃんと子供と向き合って。

今までの何年かよりも、これからの方が、ずっと長いから!』

 

のぞみから既読は付いたが返信は無かった。

しかし、数週間後に…1枚の画像が送られてきた。

姉妹のように笑い合う自撮り写真だった。

 

玲子も奈緒を迎えに行く日まで、コリウスの鉢植えを育て花瓶に花を飾る。

 

そして、夜の街へ出向く。

錦の女として、咲き誇る為に!

 

 

The End