「な…お…?」
奈緒が黙ったまま、玲子に抱きついてくる。
「ごめんね。お母さん…
私ね、私…お母さんが大好きだよ。だからね…だから、頑張るお母さんの邪魔に…」
奈緒が息を詰めながら玲子に縋(すが)りついてくる。
顔をすり合わせ、それがどちらの涙なのか解らなくなるくらいに。
「奈緒…少しだけお母さんに時間をちょうだい。逃げたくないの。
もう、逃げたりしないから…絶対に迎えに行くから!!」
玲子はリナである自分からも、裕也の母親としての自分からも逃げたくはなかった。
何もなかった自分を救い上げてくれたママへ、そして…憎しみという形でしか出会えなかったレイラへ。
奈緒と裕也の母親である自分へ。
全てのケジメを付けて、胸を張って奈緒とまた3人で笑い合える家族になるために【RedROSE】に戻る事を決めた。
レイラは頬と首に残る大きな痣を隠すことなく、出勤してきた。
流石だと思う。
玲子は改めてレイラに謝罪した。
あくまでも、中村玲子として。
しかし、裕也は自分が産んだ子供であり、裕也の家族は玲子と奈緒であることを告げる。
それをレイラが受け入れる日が来なくても、揺るぎない決意として共に【RedROSE】に咲く花になりたい。
そして、自立できる準備が出来た時に、親友の「りな」に『リナ』の卒業を報告したい。
過去には戻れないし、戻る必要もない。
裕也が今生きている事を否定しない。
自分が『親』になる、自覚だと思った。
それでも、錦の夜に咲く花としてできるところまでやり切る。
―私は、誰からも逃げたりしない!―
ゴールテープの先には、またスタートラインと大輪の花が自分を見つめていてくれるはずだから。
玲子はのぞみにも連絡を入れた。
『今からでも遅くないから、ちゃんと子供と向き合って。
今までの何年かよりも、これからの方が、ずっと長いから!』
のぞみから既読は付いたが返信は無かった。
しかし、数週間後に…1枚の画像が送られてきた。
姉妹のように笑い合う自撮り写真だった。
玲子も奈緒を迎えに行く日まで、コリウスの鉢植えを育て花瓶に花を飾る。
そして、夜の街へ出向く。
錦の女として、咲き誇る為に!
―The End-