玲子は反芻する。
「この子は、私の子で…この子の人生はこの子のものだから!」
翌日。
玲子はパートを休み裕也と過ごし、ラウンジへ行く前に保育所に裕也を預け【RedROSE】に向かった。
いつものように早めへ店内に入ると、ママと誰かの話し声が聞こえてきた。
「‥‥そういう事じゃなく…」
ママの感情的な声を遮るのは、澄んだ女性の声だった
「あの女は実家に帰します。
2度とこのような迷惑はかけませんので、これは賠償金として受け取ってください。」
「要りません!」
ママが言い切る。
玲子は見てはいけない現場に居合わせた気がして、身を捩(よじ)るがママは気付いていたようで「ああ、リナちゃん。おはよう!」と、さっきとは別人のいつものママの顔に戻っていた。
ウエストラインが綺麗に見える、薄い桃色の上品なビジネススーツを身に纏い、肩にあたる髪はアッシュブラウンで品のある女性が振り返った。
「…り…ナ?」
それは玲子が発した言葉なのか、それともビジネスウーマン然とした彼女が放ったのか…。
重なり合い、そして視線がぶつかる。
「玲…ちゃん…?」
「りな…」
15年ぶりくらいの再会。
そこに居たのは、本物の『りな』だった。
意外というよりも残酷すぎる再会に、玲子の足がすくむ。
『お嬢様』と称された自分が今は子持ちのホステスで、自分とは住む世界が違うと距離を取って見失ってしまった『りな』は、成功の道を歩んでいるようだった。
りなは玲子に優しく微笑みかけ、胸元から名刺ケースを取り出すと玲子に握らせて「お邪魔いたしました」と告げ、店を出て行く。
ママに言われなくても分かる。
りなは、のぞみの彼氏の本妻なのだろう事が。
『勝てる気がしない』
のぞみはそう言った。
旦那の愛人による不始末のケリを付ける妻。
その名刺には『エステティックサロン リナージュ』代表取締役という記載がある。
親の借金による夜逃げという形で幕を閉じた友人が、今は全国に展開しているエステサロンの社長なのだ。
打ちのめされる気持ちに、全身の震えが止まらなかった。