莉子の心臓が暴走したように、鼓動が激しくなっていく。
来てくれた…。
タクシーが走り去るのを見送ってから、莉子は自ら昭人の広い胸に手を伸ばし、昭人もそれに答えるように華奢な莉子の身体を引き寄せた。
「ズルいなぁ…。」
昭人が莉子の耳元で囁く。
左手で、頭を優しく包む。
気持ちがいい…。
大きな手から伝わってくる温もり。もっと、強引に引き寄せて欲しい。
逞しく張りのある昭人の胸に、赤を基調とした3Dネイルの指先を這わせた。昭人の吐息が耳元から、頬へ移動し、ゆっくりとだが確実に、莉子の唇に近づいてくる。
待てない。
強引に奪い取って欲しい!!
でも…見たい。
その綺麗な口元が、淫らに開く瞬間を!!
莉子は誰とキスをする時にも、必ず目を閉じるようにしていた。生理的に受け付けられないと感じてしまったら、全てが終わってしまうから。
でも今は、そうは思わなかった。
しっかりと見定めて、溺れたい。
いや、私を本当の意味で、身も心も全て落として欲しい。
そして、貴方も落ちてきて!
昭人の潤った形の良い薄い唇が、ゆっくりと開くのを見つめながら、莉子も唇を開く。
まさに、至福の瞬間だった。
優しさなんて求めないから、貪りついて欲しい。
莉子から誘うように、舌を招き入れる。
歯止めなんて利かなかった。
どちらからともなく、ゆっくりと唇を離した瞬間、名残惜しさを感じた。
「泊って…行って、ください。」
息が上がっている。莉子は、昭人の唇に向かって問いかけた。
昭人の唇は、莉子のグロスで淫らに光った。
「今日は、帰るよ。」
「え…?」